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私とアシスタントの村崎は、千葉のマザー牧場にファッション雑誌「ACT」の専属モデル兼インフルエンサー、緑野らいむを追ってやってきた。
Twitterで「#落ちたい」、「#落下」、「#落ちる」というハッシュタグが地味に増えているのに気づき、約45分のドキュメンタリーを撮ろうと思った。
取材はこれらのハッシュタグに距離を置いている緑野らいむに決定だった。
私は緑野らいむの事務所と契約をして、彼女の密着取材の許可を得た。
それまで「#落ちたい」というハッシュタグは、もっと抽象的に「闇に落ちたい」……暗黒な方向を目指す、そういう意味であったから、なおさら本来の用途とは違う、もっと即物的な「#落ちたい」の増加にはどこか不吉な、不穏なものを感じた。
緑野らいむは家族と一緒にマザー牧場にやって来ている。
彼女の家族にもこの番組製作は理解してもらったので、らいむの日常をも強調して撮りたかった。
緑野らいむは、高校生、十七歳だが、かなりの童顔で中学生と言われたら信じてしまいそうだ。風でかなり明るめの茶色いウルフカットが揺れている。
「らいむはやらないの? バンジージャンプ。そういうの今流行っているんでしょ?」
うーん……とらいむが母に答える。
やってみたいけど、とりあえず見学できるから、バンジーの塔の上からの景色とか、見てみたい──そう彼女は言う。見学だけなら二百円だった。
チケットを購入して、私もヘルメットを被り、階段を昇ってゆくらいむに続く。
「どう? これならできそう?」
マザー牧場のファームバンジーは高さが二十一メートル、ただし、周囲の光景──アクアラインや京葉工業エリアが見下ろせるので、高さの体感はもっとあるように感じる。私には無理だ。
緑野らいむがスマートフォンを操作しはじめた。
メモアプリに私への秘密メッセージを書いてくれた。
今まで本当は家族が心配するから言えなかったんですが、落ちてみたいです! 極秘でお願いします! と。
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