アルフィの物語

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 薄れゆく意識の中で、アルフィは最期の力を振り絞り、ランディに話しかけた。消えいるようなささやき声の言葉をどれだけ理解してもらえたかはわからない。ランディの腕の中でアルフィはそっと目を閉じる。  ごめん、ランディ、なんだか眠いんだ。目が覚めたらゆっくり話そう。  そうつぶやきながらアルフィは永遠の眠りについたのだった。  何度か転生を繰り返したその後の人生。どの人生でもアルフィは必ずランディと出会ってきた。けれども思い出すタイミングも、人生の役割もあの時とは違っていたから、なかなかアルフィだった時のあの誤解は話すことが出来ずに終わっている。  その繰り返しの中で、ランディと和解をし、失われた時を取り戻すことはアルフィの悲願となった。  雄一郎の人生では自分はまだランディに出会うことすらできていない。生命の終わりが近付きつつある今、雄一郎は運命任せにすることをきっぱりとやめることにした。  自分の力でランディに、出会う!  そう決心すると2人の物語を小説にすることにした。  この話を読めばランディならば自分がここにいることに気づくだろう。  今はインターネットを通じて物語を届けられる時代だった。  これは、幸いなことだ。  連絡手段としてSNSも使えるかもしれないと、始めてみることにした。  現実は物語よりも奇なり、の言葉通り、実際に起こったことを体裁整えて書いているだけなのに物語の読者はどんどん増えていった。更新を待つ読者がいる。SNSでもはるか離れた場所に友人と呼べる人もできた。  意外にもこのことが雄一郎にとって新たな活力となっているらしい。医者も驚くほどに体調は安定していた。  時折、自分の目の黒いうちはもうダメかもしれないという思いが首をもたげくじけそうになることもあるが、全てをこの物語に託すと雄一郎は決めていた。それに、ランディならば気が付くに違いない。これが君と僕の間の物語だと。それに、自分がいなくなった後でも物語は残って伝え続けてくれるだろう。  物語をひたすら書き続け、中盤を過ぎた頃、雄一郎のSNSに一通のダイレクトメッセージが届いた。  来た!  雄一郎にはそれがランディからだとはっきりわかった。メッセージの送信者は山崎康介。彼は2人の間のことについて何も語ってはいなかった。  ただあなたの書いた物語について話したいことがある、とだけ伝えてきたのだった。  雄一郎は高鳴る胸、震える指で返信メッセージを送った。もちろん、まだ、あの時代のことは触れずにいる。まずは会わなければ。  1週間後の週末に、と約束を交わし、メッセージのやりとりは終わった。    それからの7日間は雄一郎にとってはあっという間の時間だった。初めてのデートを前にした中学生のような浮足立ち方じゃないか。  雄一郎は一人苦笑する。この日のために看護師さん達にからかわれながらも身なりをきちんと整えすべての準備は整っていた。  けれども、当日、ベッドに腰掛けソワソワと落ち着かない心持ちで扉を見つめる自分がいることにふと、気が付く。 「まるで、村の祭りの前の日みたいだ……」  幼かった頃、村の祭りが楽しみすぎて二人同じベッドで布団をかぶり眠れない夜を過ごしたことを思い出す。  そうしている間に扉の前に誰かが立っていることに気が付いた。  動く気配のないその様子に、彼だ、と確信すると雄一郎は扉に近付きゆっくりとそれに手をかけ深く息を吸い込んだ。    ――私の物語は再び動き始めた。  雄一郎は心の奥から込み上げる何かを噛み締め、扉をゆっくりと開き始めた。    
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