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特にやることも無いので、テレビをボーッと眺めている。
「暇だな」
財布の中身を確認してみるとジャスト1000円
「コンビニでも行くかな」
テレビを消し、鍵は朝食の後に蓮さんから鍵を預かっているので問題無し、パーカーを羽織って外に出る。
「行くか…」
記憶を頼りに近所のコンビニに向かって歩く、四年くらいじゃそんなに街並みも変わらない。
この公園を近道にしたらコンビニがあるが
「…」
足が動かない。
この公園は四年前葉月姉ちゃんが亡くなった場所、動悸がして、目を背ける、やはり俺は弱い。
公園を避けて回り道をしようとした時。
「テメェシカトしてんじゃねぇぞおらぁ!」
公園の中から怒声が聞こえてきた、思わず振り返ると、何やら男女が揉めているようだ。
女性の服装を遠目で見ると。
「涼夏の制服と一緒だ…」
つまり葉月姉ちゃんが通っていた高校…
女性は声も上げず、掴まれた腕を振り払おうと必死に抵抗している。
その揉み合いが過去の光景をフラッシュバックさせる。
――大丈夫だよ、悠太、菜月、あたしは強いからここは任せて逃げなさい!――
胸が苦しくなる、あの日葉月姉ちゃんは俺たち2人を守ろうとして……
思い出される当時の情景を掻き消すように、公園の中へと走り出す。
男が暴れる女性に拳を振り上げた所だった。
「この場所でそんな事してんじゃねえ!!!」
「ぐっふぇえ!」
ドゴォ!鈍い音を立てて、助走をつけた右ストレートが男の右頬に突き刺さり、男は女性の腕を掴んだ手を離して頭から地面に叩きつけられるように倒れ込んだ。
頭を押さえ身悶える男に馬乗りになり、続けて殴り付ける。
「お前のせいで嫌な事思い出したじゃねえか!ああ!?」
殴る、殴る
ぐへ!だのやめろ、だの時折男が言うが止まれない。
トドメを刺してやろうと振り上げた拳を止められた。
後ろを振り返ってみるとさっきの女性が腕に抱きつき、必死の形相で首を横に振る。
その表情を見て、過去の自分を思い出し、力が抜ける。
「あんたも、平日昼間はこの公園は人気がすくねぇんだ、気をつけろよな」
八つ当たりだって言うのは分かってる、でも言わずにはいられなかった。
「…………」
女性は無言で口をパクパクさせている。
俺は女性の腕を振り払い、まだ収まらないフラッシュバックに耐えながら元来た道へ歩き出す。
こんな事なら外に出るんじゃなかった…
公園から出るところでもう一度腕を掴まれる。
「…………!…………!」
先程の女性がまた、口をパクパクさせている。
「あんた、もしかして声が出ないのか?」
女性は首を縦に振った。
可哀想だが、そう思うだけの余裕は俺には無い。しかし先程より弱々しく掴まれた腕を振り払うことができなかった。
「ちょっと…俺…この公園にトラウマがあるから……外に出てからでいい?」
再度首を縦に振った女性と共に公園を出た。
「それで?俺に何か用?」
俺が聞くと、女性はポケットからスマートフォンを取り出し目にも止まらぬスピードで文字を打ち込んでいき、画面を見せてきた。
『私は秋山麗奈(あきやま れいな)助けてくれてありがとう、女の子なのに強いんだね』
「おい、俺は女じゃねえよ」
無表情のまま、またスマホを操作する麗奈。
確かに俺は今、髪は伸びっぱなし、姉ちゃんに似て女寄りの顔で、て、低身長…だから間違えるのも仕方ないか。
『あんな事の後で冗談は言わなくていいよ』
「冗談でもなんでもねえよ、俺は悠太って名前で男だ。お礼なら受け取った…帰ってもいいか?」
一刻も早くこの場を離れたい俺は、心底嫌な感じを顔にも言葉にも出して聞いてみた。
『待って、呼吸辛そうだし。お茶でも買ってこようか?助けてくれたのに…心配だよ』
「お構いなく、それじゃ」
冷たく突き放し、麗奈に背を向けて帰ろうとして歩き……出せない。
パーカーのフードを掴まれている。
「んだよ、まだなんかあるのか?」
『あなた、私と同じ悲しい目をしてる。何かあったの?さっきもトラウマがあるって言ってたけど?』
やけに話しかけてくるな。それに確信突いたことを無表情で聞いてくる。
「初対面のあんたには関係無いだろ?」
『助けてくれた人が苦しそうにしてるから、力になりたい』
「俺はムカついたから、殴ったそれだけ。助けたつもりもない。もういいか?しつこいのは好きじゃない」
『…踏み込んだ質問をしてごめんなさい。助けたつもりは無くても、それでも私は君に助けられた、ありがとう。またね』
やっと手を離してくれたので、そのまま歩き出す。
気分は最悪、動悸が治らないのはアドレナリンの分泌の所為にしておいたとしても、チラチラと脳内に過去の映像が蘇ってきやがる。
だめだ…コンビニに行くのは、やめにして家に帰ろう。
俺は元来た道を来る時とは逆に、自分の意思に逆らうような体に鞭打って歩き出した。
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