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歩いているうちに少しずつ冷静になってきた、思考が回復してくると先程の麗奈の言葉がやけに引っかかっている。 私と同じ悲しい目…麗奈も大事な人を失った事があるのかもしれない。 あれだけ冷たく突き放して、別に他人から嫌われようと構いやしない。のだが、もし仮に俺と同じ境遇の人間だったとしたら言い過ぎたとも思う。 どちらにせよ、同じ学校に通う事になるんだ。もしその時になっても気になるようだったら謝りに行こう。 それよりも今は、ジンジンと痛む拳が問題だ。赤く腫れている、これは姉ちゃん達にバレたら叱られるだろうな… なんとか隠し通せないかな、時間稼ぎはできても飯の時にバレてしまいそうだ。 そんな事を考えていると、いつの間にか自宅の前に到着していた。 どちらの家に入るか迷った俺は、何も無い自宅に入るのは嫌で麻波家の玄関の鍵を開けて家の中に入っていった。 リビングに掛けてある時計を確認すると時刻は12時ジャスト。 時間が経って胸の苦しさは無くなったけど、帰りにそんな時間掛けてたのか。 羽織っていたパーカーを脱ぎ捨て、図々しくも、誰もいないのでソファーにドカっと座る、柔らかい感じが心地良い。 そろそろ姉ちゃんと涼夏が帰ってくる頃かな、憂鬱だ。 「たっだいまー!」 憂鬱だ…… 扉を勢いよく開けて帰ってきた涼夏に出来るだけ不自然にならない様に右手を隠す。 「相変わらず騒々しいな、おかえり涼夏」 「えへへ、ただいま悠くん!良い子にしてた!?」 と俺にふざけた質問をしながら着ていた冬用のコートを対面したソファーに掛け、俺の左隣に座る涼夏に焦る事なく悪態をつく。 「何だそれ、俺は子供じゃないっての、そもそも外になんか出てねえし」 「身長は子供のままだけどねぇ!」 このアマ…チョップをかましてやりたい衝動に駆られるが、今はこの腫れた利き腕を隠さないといけないので我慢だ…。 「そんな事より、私は大人しくしてた?って聞いただけなんだけどっ、怪しいですなぁ〜お外で何してきたの??」 ニヤニヤしながら、それでいて本当の事を言えよ、と目で語っている。 昔から鋭い所があるんだよな…どうするか 「いや、言葉の綾だ、気にするな」 「ほほうほうほう」 瞬間、涼夏が隠していた俺の右手首を掴み、無理やり上に挙げた。 「いてえし、俺は痴漢もしてねえし、離してくれねえ?」 と言うと、涼夏の顔から表情が消え、ギロリと睨みつけられる。 「そんな事言う余裕があるんだね、私に嘘ついてさ、大人しくしてたんなら、この怪我は何?」 「別に、お前に関係無…!」 バッチーン!!とんでもない衝撃と共に視界が90度回った。 俺は不服を訴えようと立ち上がる。 「お前朝言われt」 「関係なく無い!!!関係なくなんか無いもん……!!グスッ」 意地らしい表情でこちらを睨みながらも、泣き始めてしまった涼夏に唇を噛み締め、また、ソファーに腰を落とす。 「悠くんは…私の大事な…幼馴染だから、関係なくないもん…」 お前だって俺にとって大事な幼馴染だ。と言おうとしても声が喉に引っかかって言葉が出ない。代わりに少し深呼吸をする。 「俺は人の好意を煩わしいと思ってしまう、近しい人でさえ、菜月姉ちゃん以外は何かあるんじゃないかって勘繰ってしまうし、菜月姉ちゃんですら、時々煩わしいと思ってしまう」 「あんな…事があったんだもん、わかるよ…でもね」 涼夏がゆっくりとソファーから立ち上がって俺の目線に合わせるように膝立ち、涙が溢れる瞳を腕で拭うとしっかりと俺の目を見て 「私は悠くんを諦めない、煩わしいとか悠くんの都合は関係無い、私は菜月さんとお母さんと同じ、悠くんの味方だから」 と、俺の手を優しく包み込むように握った。 何の動揺もない、茶髪の間から覗く涼夏の真っ直ぐな瞳は、綺麗で俺の視線を捉えて離さない。 「…おう」 「私も、数ヶ月だけど悠くんよりお姉さんだからね!だから悠くんの心が治るまでは、私が守ってあげるから、だから言いづらい事でも私にだけは相談して、頭は良くないけど、何とかしてあげるからね!」 「…ありがとうな」 もっと言いたい事はあったけど、それしか言葉が出ない。 「えへへ、どういたしまして!それじゃ、手の応急処置しよっか」
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