12月17日、青春のひとゝき

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   私立(さくら)学園高校の下駄箱スペースは、学校が終業したばかりの時間で閑散としていた。屋外と隔てる扉は閉められていて、隙間風(すきまかぜ)は入らないというのに、暖房器具はなく、コンクリートの床から冷気が迫り上がっている。  ゴミ一つ落ちていない。並んでいる鍵付きロッカータイプの下駄箱の上には何も置かれていない。へこんだ下駄箱もない。  2年の佐々木(ささき)さゆりと姫宮(ひめみや)充希(みつき)が、まだ上履(うわば)きを()いた状態で、廊下側から下駄箱を眺めていた。  佐々木さゆりは、活発で自然と浮かべる天真爛漫(てんしんらんまん)な笑みには、ショートカットのボブヘアが似合っていた。  姫宮充希は端正な顔立ちにスラリとした細身で、知らない人が見たらモデルだと勘違いすることだろう。  校舎の中でここだけ違う空気が流れている。ひんやりと澄んだ空気。上を見れば天井は高く、広く大きな空間が広がっている。しかし、前を見れば、視界は下駄箱で遮られ見渡すことができない。 「ここはまるで、森のようね」 そうつぶやくさゆりを見て、充希が微笑む。 「さゆりは詩人だね。さぁ、姫さまが来る前に隠れよう」  下駄箱の間の通路の物陰で、二人は身体を寄せ合い、息をひそめて隠れた。大きな木の後ろなら隠れることができるが、下駄箱と下駄箱の間なのだからそうはいかない。  さゆりは、見つかることは計算の上だった。見つかれば、そこで話しかければいいと、そう思っていた。  そこへ、一人の少女が、うなだれながら、二人の目の前を通り過ぎた。そう、通り過ぎた。  さゆりと充希は、一瞬、おたがいに顔を見合わせ、微笑んだ。
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