12月17日、青春のひとゝき

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 通り過ぎた子のチラリと見えた横顔。  身長に比べ、顔が小さく、形の良い鼻の先と唇、顎の先が綺麗なラインを作る美しい横顔。  普段なら、吸い込まれそうな大きな目は、今は、細められていて生気がなかった。  頭の後ろでポニーテールが寂しそうに揺れている。  足取り重く、下駄箱が並ぶ奥深くへと入っていく。自分の下駄箱の前で立ち止まり、うつろな目で鍵を刺す。さゆりと同じクラスの清水彩(しみずあや)だ。 「あー、もう12月17日かぁ。クリスマスイブまで、一週間しかないっていうのに……」  彩が、ため息をつきながらつぶやいた。  彩は、下駄箱の靴に手を伸ばしてまた、ため息をつく。 「彩、何か心配事? あ、永井くんと喧嘩(けんか)したとか?」  いつのまにか、彩の真後ろに立っていたさゆりが、彩の背中越しに声をかけた。  ビクッとして振り向く彩の大きく見開いた瞳の中で、さゆりのボブヘアーが艶めき揺れている。  彩は、左手に持っていた学生カバンを思わず落とした。誰もいないと思っていたのにと顔に書いてある。  さゆりの横に立っていた充希(みつき)が、一歩前に出て、カバンを拾い笑顔で彩に差し出す。 「あ、カバン、ありがとう。ちょっ、ちょっと、悩みがあってね」  さゆりが再度、小鳥のように顔を横にかたむける。 「それ、私たちが、力になれないかな?」 「う、うん。悔しいけど、さゆりなら解決できるかも」 「じゃあ、今日は金曜日。明日は休みだから、ファミレスで話を聞こう。いいよね、彩、充希」  充希は笑顔でうなずき、彩の顔色を伺う。  彩はうなずくと、うつむきながら学生カバンを胸の前でぎゅっと抱きしめた。 「じゃあ、しゅっぱーつ」  さゆりが号令をかけ、歩き出すと、充希が小走りで、追いつき、さゆりと並んで歩く。  その後ろに彩が、とぼとぼと続いた。
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