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むくりと顔を上げた充希が、笑みを浮かべる。
「彼女からマフラーもらったら、きっとその時点で、お気に入りのそいつは2番目に転がり落ちるんじゃないかなぁ」
充希が、自信満々の笑みを浮かべているが、彩は硬く口を結んで首を横に振る。
「あの時の哲也の顔を思い出すと、勝てる気がしない」
12月にもなると、日が落ちるのが早く、窓の外は彩の心のように、どんどん暗くなってきていた。
さゆりは、哲也のお気に入りのマフラーを知っていた。あれは、シスコンの哲也が妹からもらったものだ。哲也がシスコンだということは、今でも内緒にしている。あのマフラーはおそらく哲也の1番の宝物。この前のデートの時に、哲也が彩の前でしていたのも調査済み。
そして、プレゼントとしてマフラーはありえないことをさゆりは充希に事前に伝えていた。
さゆりはうつむいて、見えないようにまた、ニタリと笑った。
「かわいい名前付きキーホルダーとか?」
「そんなのは趣味じゃないと思う」
充希の提案を間髪入れずに否定する彩。
なかなか、わかってるじゃないとさゆりは微笑む。
「じゃあさ、デートの時に何か欲しいとか、何かに気を取られてじっと見てたとかなかった?」
さゆりの問いに、首をかしげる彩。目を見開き、自分のお腹の前で、上に向けた左の手のひらに右手の拳を上からポンと叩く。
仕草までがかわいい彩にさゆりが微笑む。
「真っ赤なスポーツカーを見て、かっこいいって、あんなの欲しいって言ってた」
「車なんて買えないし……」
「そもそも、免許ないし……」
さゆりと充希は、顔を見合わせ、肩を落とした。
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