第1話「ダンジョンに捨てられて」

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第1話「ダンジョンに捨てられて」

───十年前、  ……僻地の村にて────。 「「逃げろッ、逃げろぉぉお!」」  ──────わーわーわー!  きゃぁっぁああああああ!! 「モンスターだ! モンスターが溢れたぞぉぉぉお!」 「じ、自警団は何をしてるんだ?! 冒険者はどこにいった?!」  ───やめろぉぉぉおおおお!!  喊声と悲鳴が轟いていた……。  耳を覆いたくなるようなすさまじい絶叫がそこかしこで───。 「「ぎゃぁあああああああああッ……!」」  そして、断末魔と鬨の声の協奏曲のなか、カールの村は燃えていた……。  そこに交じる人ならざるモンスターの咆哮。 『ごるぁっぁあああああああ!!』 『ぐるぉぉぉおおおおおおお!!』  ……空を覆いつくすのは魔物の群れ。  ───大地を埋め尽くすのも怪物の群れ。  (いろどり)は赤と黒のみ。  木々は燃え落ち、  畑は踏み荒らされた。  わずかばかりの自警団は蹴散らされ、ダンジョンを攻略していた冒険者は姿形もない。  後に残るのは、周囲はうめき声と断末魔の悲鳴だけが響いていた……。 「…………ここももうダメか」  粗末な剣と、農機具を護身具に立てこもっていた数人の男女が悲壮な声を上げる。 「だ、ダンジョンブレイク? それとも、魔王軍……? あぁ、いや……! もう、そんなことはどうでもいい!」  半ば投げやりな態度で男は宣い、つらい顔を隠しもせずに少年───カールに向き合った。 「聞け、カール。すまないな……。せっかく村で一番にスキルを授かったお前を祝ってやるべき日にこんなことになってしまって」  もちろん彼のせいではない。  だが、謝らずにはいられなかったのだろう。 「カール……。私たちの可愛いカール……」  煤と血でボロボロになのに、なお美しい女性が家の地下貯蔵庫に少年───カールを匿った。  ……そこは狭く、汚く、暗い場所。  酷い悪臭が立ち込めてはいたが、作りだけは頑丈だった。 『『グルァッァアアアアアアアアア!』』  しかし、魔物たちの魔の手は、すぐそばに迫る。 「───ごめんな……。君の幼馴染は入れてあげられないんだ……。だってそこは一人しか入れないから」  そういって男はもう一人の少女を抱きしめ、カールだけを地下に匿った。  頭を押しつぶさんばかりの巨大な蓋が、ゴリ、ゴゴゴ……と動き、カールの頭を押えつける。  たまらずカールは息苦しさでその蓋を叩くも、誰も彼も聞いてくれない。  それどころか、 「カール。いいかい? 絶対に……絶対に声を出してはいけないよ? 全てが終わって(・・・・・・・)、静かになるまで、ジッと息を殺しているんだ───いいね?」  そういって農具を手にし悲壮な表情を浮かべる精悍な男性……。  今思えば彼らは誰だったのだろうか?  父と母? それとも、村の誰か───?  あの時のショックのせいか、面影すら思い出せない……。  だけど、彼らが最後に言った言葉だけは鮮明に覚えている──────。 「「カール」」 「「私たちのカール」」  その言葉を、  鮮明に───……。   「困ったこと、つらいこと───そして、」   「……助けが欲しい時には、『お星様』に祈るんだよ。いいね?」  ゴリゴリ、  ゴゴゴゴゴゴ…………!  地下の蓋が閉ざされる瞬間、最後の光がまるで一番星のように輝いていた───……。  ───ゴォン……!  そして、二人の言葉を最後に、地下室の蓋は閉じられカールの意識と視界は闇に閉ざされる。  あとはもう、外でどれだけおぞましい音が響いても、  彼等に言われた通り、カールはジッと膝を抱えて一言もしゃべらなかった。  ……例え、むせかえるような血と肉の焼ける匂いが地下室を覆いつくしても、ジッと動かず、話さず、息を殺して、ただひたすらに耐えた───…………待った。  すべてが終わるその瞬間を───。  そして、 ※ 10年後─── ※    「殲滅してやる……!」  地下室で見た最後の光のごとく、  ダンジョンの空に一番星が輝いたとき、あの時の光景を思い出したカール。  そう。  ダンジョンの空に誓うカールには、幼少の頃より秘めたる思いがあった。  カールの願いは、  人々を苦しめる魔王を討ち、  世界に平和をもたらすこと───。  それは、誰もが夢想する英雄の物語そのものだ。  しかし、それが無理なことは、カールが10才のとき、すでに分かってしまっていた。  村が滅ぼされて数日後……。  救助隊に発見されたカールは天涯孤独の身になった。  そのかわりに孤児院に引き取られることになったのだが、孤児院で再判定してもらって判明したスキルが【通信】という、『念話』や『通信魔道具』の代わりにしかならないゴミスキル(・・・・・)だったのだ。  その時以来、胸に魔物に対する憎しみを秘めたまま、カールはただひたすらに自分を鍛えて生きて来た。  魔王を討つ勇者になれずとも、勇者を支援する冒険者になら慣れると信じて……。  それから、10年の月日がたち───。  念願の冒険者になっていたカール。  今、カールは勇者と呼ばれる存在に最も近い、Sランクパーティ『雷の弾丸(ブリッツクーゲル)』のサポーターとして活動していた。  そして、本日のクエストはといえば、  ギルドから科せられた超難関クエストに挑んでいる最中であった。  その名も、【勇者】クエスト───。  伝説の英雄【勇者】の称号を得るためのクエストで、  その条件として挙げられる、『伝説の装備』を入手という高難易度の任務に挑んでいたのだ。  ちなみに、その伝説の装備は世界各地に安置されており、現在は難易度SSクラスのダンジョン『悪鬼の牙城』にトライ中だ。  というのも、ここにはその伝説装備の一つ『聖剣』があるといわれているのだ。  そして、そのダンジョンの中庭に差し掛かった時、空にキラリ! と、光る一番星を見つけたカールがボソリと、ちょっとカッコつけてつぶやいたものだから───さぁ大変。 「あ゛ぁ゛!? おいおい、カールぅぅ? 『殲滅してやる』だぁ?……なぁにカッコつけて悦に入ってんだよ、カスが!」  ごんッ! と背後から殴られ、カールは思わずしゃがみ込む。 「いっづ……!」  下手人は長剣を携えた吊り目の青年だ。 「ぷっ……! だっさ~い! 『殲滅してやる』キリッ……ぶぷぷ! 言われた直後に仲間にツッコまれてちゃ(さま)になんなんわよ!」  そして、イアンに釣られるようにカールを揶揄するのは、パーティの紅一点、エミリーだ。 「まったく、ただのサポーターの雑用係が一丁前にモンスター退治の夢でも見てるんですか?……世も末ですね」  厭味ったらしく言うのは、パーティ一の遠距離大火力の大賢者(グランセイジ)、グルジア。 「っていうかよぉ、イアン。そんな雑魚、おちょくってる場合じゃないぞ? ここまで来りゃいいんじゃないのか?」  クイっと顎でシャクり、なにやら意味深に合図を送るのは、パーティ一の重装備肉壁担当───バラム。 「……あぁ、そうだな。そろそろ頃合いだな」  バラムに促されそう呟いたのは、  我らがSランクパーティ『雷の弾丸(ブリッツクーゲル)』のリーダーで、さきほどカールをぶん殴った青年、イアン・バナッシだ。  彼は、仲間たちに軽く頷づき返すと、カールの背後に回し腕を締め上げる。  ギリリリリ!! 「い、いだだだ! な、何すんだイアン?! こ、頃合い(・・・)って? え? ちょ───……」  意味が分からなかったカールは顔中に「?」マークを浮かべてイアンを見つめる。  しかし、 「……よーし! じゃあ、そろそろ始めるか、……おい」  コクリ。 「え? な、なんだよ?!」  イアンが頷くと、それを合図に、カールの周囲をグルリと取り囲む仲間たち。 「へへ。待ってました~!」 「あー。まじめな顔してるの疲れたー。途中で何度も吹き出しそうになっちゃった。ウププププ!!」  そういってニヤニヤ、ニチャニチャと笑いながら武器を手にカールの退路を断ったのは、  やはりグルジアとエミリーだ。  ちなみにエミリーは露出の高い服をきているけど、こーみえて回復担当の女神官(プリースト)だったりする。 「え? ぐ……グルジア? エミリー?! ど、どういうこと?!」  事前に打ち合わせをしていたのか彼らの動きには全くの迷いがない。  拘束されているカールに疑問すらもっていないようだ。 「い、痛い! イアン、放してよ?! な、なんなんだよ? 急にどうしたの? これから『悪鬼の牙城』をクリアするんだろ?」  急に不穏な空気になったことを敏感に感じ取ったカールはジリっと後退できる態勢をとるも身動き一つとれない。  それどころか、ついには前後左右全てを4人の仲間たちに囲まれてしまった。 「い、イアン……?」  状況が分からず、不安な顔でリーダーのイアンに確認しようと窺うも、イアンはじつに朗らかな顔で笑う。 「あぁ、もちろん攻略するぞ? そのための準備なんだ、これは───。で、さぁ。……カールよぉ、お前、先日Lv上がったよな?……これで100レベル達成だろ? おめでとう、おめでとう! おーめでとう!」  ぱちぱちぱち 「え? あ、うん………………え?」  突然、Lvが上がったことを褒められるカールであったが、意味が分からず間抜けにも礼を言ってしまう。  だが、急に何なんだ……??  レベルが上がったのは昨日今日の話じゃないぞ? 「いやー……。じっさいお前みたいな雑魚のLvを挙げるのも一苦労だったぜ。だけど、お前が馬鹿で助かったよ。ここまで、騙して連れ出すのは結構苦労したんだぜ?」  …………いや、 「な、何の……はなし、だ? だ、騙す??」  イアンは同じ故郷出身の裕福な青年だ。  あの日、村が魔物に滅ぼされた時、彼はたまたま買い出しに付き合って町に(行って)いたおかげで難を逃れたという。  そんなこともあって……。  同じ村出身者同士ということもあって気心は知れている中のはずだった───……のだか。 「ぶはっっ! おい、イアン。コイツ、まだ(・・)何にもわかってないぜ?!」  バラムが耐えきれないとばかりに身体を曲げて大笑い。 「はは! 本当にカスですね、こいつは───。カススキル持ちで万年Cランクなだけはありますよ」 「そ~そ~。ほんっと、鈍いわね~。いい加減自分で気づくと思ったんだけど、やっぱ馬鹿は最後まで馬鹿ねー」  ゲラゲラ、ケラケラとおかしげに笑うグルジアとエミリー。  一方、カールは混乱の極致にあった。 「ちょ?! え? え? え?」 「……まぁだ理解できないか? お前──────……。なぁんでCランクの屑のくせに、俺たちSランクパーティに居られると思ってんだよ? マジで馬鹿か?」  呆れたようにせせら笑うイアン。 「そ、それは……イアンと俺は同じ村で───……仲が」  仲が……。  あれ? 仲、よかったっけ───? 「おいおいおい! お~~~~い?? バカ言うなよ! 俺は生まれがあの村ってだけで、貧乏人のお前とはろくに口もきいたことなかったじゃないか? まさか、そんなことで俺にシンパシー感じちゃってたのか? おい、マジか、お前?!」 「な、なぁ。イアン? ちょ、ちょっと……。な、何の話か見えないんだけど?」  カールはいまだに理解できない。  ついさっきまで背中を預けて、仲間を思いやりながらダンジョンを攻略しようとしていたばかりだというのに……。 「あ゛?!…………ほんと、まだわかんねぇのか? お前がLv100になるまで面倒見てやってさ、わざわざこのダンジョンに来た、この意味を?」  え? 「い、意味? そんな急に、意味って言われたって……。俺のスキル、【通信】をあてにしてるんだろ? 遠距離通信は便利だって言ってじゃないか?!」  そう言ったところで、 「「「「ぎゃーははははははは!」」」」  途端に馬鹿笑いするイアン達。  明らかに侮蔑の混じったそれは、 「ご、ゴミスキルが何言ってんだよ?!」 「ほんっと、自分が役になってるとか思ってたんですか~?」 「ぶぷ、ぷぷぷ~……! い、いま時、遠距離会話難んて道具で十分よ。それに、アタシも、グルジアも、そっち系の魔法使えるしー」  全員が懐から、通信魔道具を軽く振る。  確かにあれ(・・)があれば近~中距離なら連絡可能だ。 「なになに? お前が特別な気がしちゃってる勘違い君だったのか? ばっかで~」 「「「「ぶはははははははははは!」」」」 「ほんっと、お前は馬鹿だよ。俺はよぉ、伝説の武器───『聖剣』を手に入れるため、ずっとこの機会を待っていたんだ。お前みたいなお人好しの間抜けを仲間にしてレベリングしたのも今日のこの日のため」 「ど、どういう……意味だ? 仲間にしてくれたのは、昔馴染みだからじゃ───」 「なわけねーだろ? お前をLv100にして連れてきてのはよ、ここのボスが100レベル以上の冒険者じゃなきゃ釣られ(・・・)てくれないんだよ」 「…………は?」 「は? じゃねーよ。バーーーーーカ。つまりよー、お前を囮にするって意味だよ。ここのボスを外に誘い出して、その隙に伝説の武器を回収する。それが筋書きさ」  悪鬼の牙城のボス『オーガロード』は、数多の冒険者を食らってきた無敵の魔物で、いまだ討伐事例はない───。  そんな魔物に挑むくらいだからイアンには何か秘策があるのだと思っていたけど……?  え?………………カールを囮にするのが、秘策?! 「そ、そんな……!」 「……わっかんねー奴だな。ふさわしくねーんだよ、俺たちのパーティにお前みたいなカススキル持ちの雑魚はよぉ!」  カススキルの雑魚……。  たしかに、  リーダーのイアンは、その中でも特に有用な攻撃スキルの『電撃』を扱う最強の男。それに比べれば【通信】なんでカスだろうさ……。  だけど───。 「そんな理由で、俺を囮にするってのか?!」 「そーさ? それくらいがお前みたいなカスの存在価値だろ?」  こ、コイツ……!  だが、すでにカール以外のメンバーは承知しているのかニヤニヤと笑うばかり。退路を断ち、逃がさないつもりなのだ。 「……ほんっと鈍いよなぁ、お前? 昔からそうだったけど、ここまで来ればこれも才能だな───なぁ、みんな知ってるか?」  鈍い、鈍いとカールを小ばかにしたイアンは、包囲を崩さないまま、カールの背中をバシバシと叩き言った。 「こいつよぉ、昔、魔物に家族を殺されて以来、ずっ~~~と言ってやがるのよ───」 「お、なになに?」 「へへ、聞かせろよ」 「面白そうじゃないですか!」  ニヤニヤと笑うイアンは、カール以外に仲間に向けて楽し気な雰囲気を秘めたまま言う。 「───くくく、コイツのガキの頃からの夢はよぉ……うくくく! 【通信】のスキルしかないくせに、なんとまぁ、魔王を倒すんだってよーーー!!」  ───ぶはっ!! 「「「「ぎゃはははははははははははは!」」」」  途端に笑い転げるパーティ。  それを見て、唇を噛んで俯くカール。 「ぶひゃははははは! つ、つ、【通信】でどーやって魔王を倒すんだよ! ぶひゃひゃひゃ!」 「『もしもしー、魔王さんですかー? チン()でくちゃい~。もちもちぃ~?』って、感じで通信するんじゃな~い? うふふふふ!」 「ぎゃははははは! そりゃいい! 無言通信とかよー、毎日しまくったら魔王も心労で倒せるかもなー! ぎゃーははははは!」  散々にカールのスキルを馬鹿にして大笑いする仲間たち。  イアンはそれを見て、不敵に笑っているだけ───……。  今思えば、イアンはいつもこんな調子だった。  天涯孤独となったカールであったが、近傍都市の孤児院でイアンに出会ったのだ。  もちろん彼は孤児ではなく───……孤児院に出資する側の裕福な家族の御曹司として。  村唯一の生存者であるカールを見て、貧乏人と蔑んできたものだ。 (そんな奴でも、パーティに入れてくれたから…………信じていたのに!) 「イアンてめぇぇええええええええ!!」 「イアン『さん』だろうがよ、クソ雑魚カスがぁぁぁああ!」  ザクッ!!  いッッ……?! 「───ぐぁあああああああああああああああ!!」  激高して掴みかかったカールの足を貫くイアン。  その激痛に膝まづくカールが絶叫をあげた。 「おーおー、いい声で鳴くぅ♪」 「ひゃははははは! これでボスが動き出しますよー。まぁ、もう少し細工しましょうか」  そういうと、風魔法を起こしてカールの血が巻き上がるように調整するグルジア。 「あ、じゃあ、アタシは縛っとくねー。あ、痛くても我慢してね、カールぅ」  ギリリリリと、わざわざ切られた足をキツク縛り上げるエミリー。  その激痛に再び叫ぶ。 「うがぁぁあああああ! お、お前らぁぁああ!」  ごんッ!!  その鼻っ面に重厚なタワーシールドを叩きつけるバラム。 「うるっせぇ! 俺たちが離れてから叫びやがれ───」  さらに腹にもう一発! 「ぐふ……。おぇぇぇえ」 「ったく、見苦しいぜ。最後の最後くらい役に立てよ───貧乏人のクソ雑魚が」  ペッ! と唾を吐きかけ悠々と去っていくイアン。  最後にニヤリと笑うといった。 「あ、そうそう。安心しろよ」 「な、なにを……?!」    今日一番のいい笑顔をしたイアンは自信たっぷりに言う。 「───お前の尊い犠牲で手に入れた『聖剣』でよ、俺は見事に【勇者】の称号を手に入れてやるぜ?」 「い、イアン! おまっ」  そんでもってよぉ……! 「──ちゃ~~~~~~んと、いつか(・・・)は魔王も倒してやるから安心して死ねよ。じゃーなー♪」  ぎゃははははははははははははは!  大笑いして去っていくイアン。  その後に続き、好き勝手に言い残して去っていく仲間たち。 「ではでは~。次に会うときは、オーガ色のウ〇コになってますかね? ぶひゃひゃひゃ!」  汚く笑う大賢者グルジア。 「アタシさぁ、アンタのこと嫌いじゃないよ? 可愛い顔してるしぃ。だけど、ね。なんかほらぁ、孤児とか雑魚スキル持ちってなんか臭いじゃん。あ~臭い臭い。じゃーね、アタシらの出世の肥やしさ~ん」  言いたいことだけ言って去っていくくそビッチの女神官エミリー。 「よ。そんじゃまぁ──盛大に叫んでくれよ、囮ちゃん!」  グッサァァァアアアア!!    「──────ッッ?!?!」  最後にクソ野郎の重騎士バラムが、棘だらけの棍棒を振り上げると、思いっきりカールの足に突き刺した。  その痛み──────……!! 「ぎ、」  ぎぃやぁっぁあああああああああああああああああああああああああ!!  その瞬間、  ダンジョン中にカールの絶叫が響き渡った。すると、  ───ズズン……!  小揺るぎする牙城。  どうやら、ダンジョンのボス、『オーガロード』がLv100を超えた()の存在に勘づいたらしい。 「う、うぐわぁぁ……」  い、いッてぇぇ……。畜生ぉぉぉおお! 「い、イアン、てめぇ……」  痛くて痛くて、  悔しくて悔しくて……。  あんな奴を信用してついていった自分の愚かさに腹が立って──────。 「ははっ! あ~~~ばよ~~~~~~~♪」  ……なにより、  あっさりと人を見捨てて平然としているあのクソ野郎に本気で腹が立ってぇぇっぇ……。  イアン。  ……イアン。  ────イアン……! 「──イぃぃぃっぃぃぃーーーーーーーーアーーーーーーーーーーーン!!」  びりびり……!  ダンジョン中に響かんばかりの絶叫。  ボスに勘づかれようが知ったことかとばかりにカールは叫んだ。  ……逃げていくアイツの背中に突き刺すように叫んだ!  そうとも、言葉だけで串刺しにしたやるとばかりに……叫んだッッ!! 「イアン、イアン……イアンっっ!」  今度……。  今度───  もしも、今度見かけたら絶対に、ぶっ殺してやるっ! と心に決めて…………!!  ───イアぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああン!! 「畜生ぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおッ」  もっとも、  そんな機会は永遠に訪れそうにない……。  危険度SSクラスのダンジョンに放置され、  走り去っていくイアン達の背中を見ながらカールは慟哭した……。
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