第12話「火の玉特急」

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第12話「火の玉特急」

 ゴルルルルウ……。   カルルルルゥ……! 「ちっ!」  カールは出口に向かって進んでいた。  しかし、次から次にリポップする雑魚に手間取っていた。 「らぁ!」  キャィン!  紫の血液を迸らせて転がっていく人食い犬───レッサーガルムだ。  C級程度の雑魚だが数が多い。  オーガの番犬とも、オーガの食い残しを狙うハイエナともいわれている。  イアン達とパーティを組んでいたときなら、  こんな風に襲い掛かってくるような連中ではないのだが……。 「舐められてるよな……俺!」  ズバァ!!  どろっぷしたての鬼人の牙刀はよく切れる。  オマケに先ほど飲み干したレッサーエリクサーのおかげで身体の調子のすこぶるいい。  とはいえ……! 「しょせん、雑魚って思われてるんだろう、な!」  きゃいん!!  飛び掛かってきたレッサーガルムを次々に撃墜していく。  だが、きりがない。 「上級のオーガを相手にするよりはましだけど、さ!」  シュパン!!  振り向きざまに一刀!  忍び寄ってきたレッサーガルムを両断した。 「ふぅ……! もう一回キュバァァァン! ってのは無理なのか?」 『…………ザ』  ダメか……。  やはり通信途絶中らしい。  星の影に入ったとかなんとか言ってたけど、どういう意味だ?  カールは額の汗を拭いつつジリジリと進んでいく。  中庭を突破し、巨大な廊下を進んでいるのだが、帰り道が気が遠くなるほど遠く感じられる。  幸いにもオーガ系のモンスターはほぼ駆逐されたらしく、でてくるのはイアン達にビビッて敬遠していた雑魚モンスターばかりだ。  とはいえ、そんな雑魚でもカールのは強敵。  なんとか、かんとか、ドロップ品を駆使しながら倒しているが、さすがにきつくなって来た。 「くそ! もったいないけど、」  ぐびぐびぐび。 「ぷぅ! スタミナポーション代わりにエリクサーってのは贅沢だよな」  実際にはレッサーエリクサーだが、効果と考えると無駄使いには違いない。  パァ! と体が輝きスタミナを含め、ほぼ全回復させる。   「ったく、イアンの野郎。安物のポーションばかり持たせやがって。おかげでほとんど粉々じゃねぇかよ!」  オーガロードに握りつぶされて時か、  あるいはお星様の支援射撃によって吹っ飛ばされた時にか、  カールの持っていた背嚢の中身はボロボロに破壊されていた、いくつかは無事だったが、大半が損傷。    仕方なく遺棄したのだが……。 「おかげでこっちはエリクサーをがぶ飲みしてるっつの!」  空になったレッサーエリクサーの瓶を捨て、再び短刀を構える。  そして、壁を背にするようにして、死角を補いながらジリジリと撤退していく。  グルルルルル……!   ゴルルルルルル……! 「ちぃ! ドンドン増えてきやがる」    さらに間の悪いことに、ダンジョンのオーガが沈黙したことで、フィールドの外からもモンスターの流入があったらしい。  ギャィギャィ! と騒がしい声。  どうやら、ダンジョン内の勢力争い乗り出した小鬼(ゴブリン)の集団も紛れ込んできたらしい。  しかも、ただのゴブリンじゃない。この近辺で生息するグレーターゴブリン系列の上位種だろう。 「ダメだ! これ以上はもう持たない……! くっそぉ、ここまできてぇぇえ!!」  上級ダンジョンに挑むにはレベルが低すぎるのだ。  だから、雑魚にもここまで絡まれる……。  イアン達くらいの強さがあれば───……。 「いや、せめて、もう一人でも援護がいれば……!!」  誰か、援護を──────!!  カールの切実な願いに答えるものはもういない。  お星様ですら今や返事を返してくれないありさまだ。  どうやら、本当に見捨てられたらしい。  オーガ相手ならともかく、雑魚の犬っころにも苦戦しているカールに愛想をつかしたのかもしれない。  ギャィン!!  ギャィンギャインィン!!  そして、なんとか一匹を撃退したところで、短剣を弾かれてしまう。 「く…………!」  切れ味のいい短剣ではあったが連続戦闘のせいで、血と脂肪がこびりつきすっかり切れ味が鈍くなっていたようだ。  慌てて、予備の短剣を抜き出すも、ドロップしたアイテムに比べると見劣りする。  ギャィィン!  イィィイイイイイン!  ィィィィィィィイイイイイイイイイン!!  何回か、レッサーガルムと牙を合わせるが、さっきまでの戦闘に比べて明らかに攻撃力が落ちた。  奴らの身体を両断するなどもってのほかで、ともすれば剣ごとかみ砕かれそうだ。 「くそ!……これ以上は───」  も、もたない!!  ラスト一個、レッサーエリクサーで体力とスタミナを回復させようとするが、  ガブッ! 「ぐぁぁ!」  ィィィィイイイイイイイイイイイイイイイイン!!  レッサーガルムによって、背嚢に伸ばした手を思いきり噛みつかれる。 「ち、畜生……ここまでか!」  片腕に食い付かれたうえ、取り囲まれてしまって武器もない……万事休す───。 「くそ……! せめてイアンの顔面に一発───」  ィィィイイイイイイイイイイイイイイイン! 「って、うるせーなさっきからんなんだよ?!」  ギャインギャイン、イィィイインって、どんだけ、うるさい鳴き声だよ!  死ぬなら、黙って死ね!! 「…………ん? これ、レッサーガルムの鳴き声か?」  なんか違う。  もっと高周波音で、空気を圧する大声量…………つーか、頭の上ぇぇええ?! 「な、な、な─────」  今日何度目かの驚愕!!  さっきからキーーーーーンとかうるせぇっぇええ! と思えばなんのその……! 「なんじゃありゃぁっぁあああああ!!」  空から真っ赤に燃える火の弾がまっすぐにカールめがけて降ってきた!!  いや、それどころか、そいつ自身が目の前で火を噴く──────。 「うわちゃちゃちゃちゃ……!」  カールを溶かさんばかりのギリギリの距離で火を噴く燃える何か!  すさまじい速度で落下してきたかと思えば、カールの頭上高くで急制動し、火を噴きながらゆっくり速度を落とし始めた。  ……って、燃えてる!!  地面と、レッサーガルムと、 「お、おおおおお、俺の服が燃えとるぅぅぅうう!!」  あち、あち、あち……!  実際には結構離れた位置に降ってきたようだが、  実際に目の当たりにしたカールからすれば目の前に落ちてきて、ゴウゴウと火を噴かれたようなものだ。   「な、なんだよ?! なんなんだよ?! こ、今度はドラゴンか?!」  そう勘違いしても無理はない。  焼けた物体が火を噴きながら軟着陸したのだ。火を噴くといえばドラゴン、ドラゴンといえば火を噴く。  アンダースタン?! 「……と、とまった?」  しゅぅぅぅぅう……。  そいつは、盛大に湯気をあげながらようやく停止。  哀れなレッサーガルムは逃げ遅れ、何体かが溶けてしまっていた。  おかげでカールにも経験値が。  ……ありがたい。 「も、もう何が起こってもビビらねぇからな……!」  強がりを言うカールであった。  しかし、  次に瞬間、度肝を抜かれることになる!
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