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第3話「星に願いを……」
「イアぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁあああああンン!!」
───ビリビリビリビリビリ!!!
ダンジョン中に響き渡る声。
はたから見れば、ステータス画面に怒鳴りつけるやべー奴だ。
『……うぉ?! び、びっくりしたーーーー?! な、なんだ、なんだぁ?!』
ステータス画面に表示された小ウィンドウの先で、イアンの野郎がキョロキョロしていやがる。
どうやら、カールが通信をかけてくるとは思っていなかったらしい。
あまりの剣幕に、
オーガロードも驚いた顔をしているくらいだ。
……ちなみに、さっきからガン無視している状態だが知ったことか!
───今は、イアンのくそ野郎に恨み節をぶつけるときだ!!
「イアン! イアン! イアーーーーーン! てめぇぇえええ!!」
画面越しに奴を鷲掴み。
ステータス画面にがなり立てるカールであったが、イアンの奴はようやく気付いた。
『テメェって?……お、おぉー! お前かカール。まだ生きてたのか? なかなか、しぶといなぁ。はッはぁ♪』
「うるッせぇ、この野郎! ぶっ殺してやるから戻ってこい!! この卑怯者ぉぉお!!」
『はぁぁ~? 誰が戻るか、バーカ! はは♪ それにしても、怒り心頭って面だな───……。で、どうすんだ? まさか本当に、そのカススキルの【通信】で俺に勝てるとでも?…………やってみろよ、ぎゃは~はははは!』
うるッせぇぇえ!
「あぁ、そっちがそのつもりなら好きにしやがれ!……このあとギルドに連絡して、お前の悪事を全部ぶちまけてやるぁぁあ!」
もちろん、ハッタリだ。
イアンがビビってくれれば儲けものだが……。
『おーおーやれやれ! やってみろ。無駄だろうがなー、ぐひゃははは!……それより朗報だぜぇ。みろよ、お前のおかげで無事に『聖剣』GETだぜぇ♪』
ステータス画面越しに入手したばかりの大剣をこれ見よがしに自慢するイアン。
あれのせいで殺されるのだ。朗報もクソもあるか!!
『ま、これで、お前も心置きなくオーガロードのウ〇コになれるなぁ。……気が向いたらクソの横に線香でも立てに行ってやるからよ~♪』
「ざけんな、ボケッ!!」
『ハハ! 威勢がいいねー。でもよぉ、俺のことなんかより、後ろのお友達のこと───気にしたほうがいいんじゃないのか? んじゃぁな~♪』
ぶつッ!!
「あ、待ちやがれ!! クソ野郎イアン!!」
あの野郎……一方的に切りやがった!!
「クソ! さっさと出ろッ!」
───バァン!!
怒りのまま、何度もイアン達の固定番号を叩き続ける!
※ ※ ※
●拡張機能:固定通信相手追加
〇通信ポイント1【雷の弾丸】← ピコンッ
〇通信ポイント2【な し】
※ ※ ※
「おい! おぉい! イアン!!」
───イアン、イアン、イアン!!
(……アイツ。通信魔道具を壊しやがったな!)
それっきり反応しなくなったステータス画面。
おそらく、カールが固定指定した通信魔道具を物理的に破壊したのだろう。
いくら通信ポイントを設定していても、元の通信機が破壊されてるんじゃどうしようもない。
だけど、まだ機会はある。
パーティの魔法使いたち──グルジアやエミリーあたりは【念話】の魔法も使えるので、場所さえわかれば……!
「───って、こんな広いダンジョンで探せるかよ! 位置が分からないと繋げられねぇよ!!」
【通信】とて、万能ではない。
居場所が分かって、そこからSPを使って、スキルを起動し、リソースに割り込むのだ。
…………もちろん、360度、四六時中空も後ろもスキルを飛ばせば、理論上は繋がることもあるだろう。
だがそれは、霧の中で弓矢を当てるようなもの。
「……くそ! くそ!! あの野郎ッ。あの野郎ッ! 勝手に切ってんじゃねぇよ!」
〇通信ポイント1【雷の弾丸】← ピコンッ ピコッ!
〇通信ポイント2【な し】
「あの野郎!! あの野郎ぅぅう!!」
〇通信ポイント1【雷の弾丸】← ピコッ……ピコンッ、ピコンッ!
〇通信ポイント2【な し】
「イアンのクソボ……ケ───?」
───ぽた……ぽた……。
空に向かって咆哮するカールであったが、
「ぶぁッ?! な、なんだ?! あ、雨??」
何の前触れもなしに、雨のようなものが顔にかかり、思わず空を仰ぐと───。
「…………あ」
ふしゅー……!
ふしゅー……!
それは雨にあらず。
それは見下ろしていたオーガロードの涎で……!
『グルルルルルル……』
「ひぃ!」
……それに気づいてしまって、数秒。
恐る恐る振り返ったがカールがもう遅い……!
『──グルァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』
──そ、そりゃ、こーなるわなぁ!?
ビリビリビリビリビリ! と空気が震えるほどの戦咆哮!
悠長にスキル使ってる場合じゃねーわなぁぁああ!!
「うわぁぁっぁあああ!!」
あまりの恐怖に、ズルゥ! と腰を抜かしたカール。
そこに、奴の振りかぶった腕がカールに掠る!
───ゴキィィイイ!!
「ぎゃあああ!!!」
たったそれだけで、ボキボキボキと全身の骨が悲鳴を上げる。
だが、不幸中の幸い、腰を抜かしたおかげでクリーンヒットだけは避けられた。
『──ゴルァッァアアアアアア!』
避けんじゃねぇ! とばかりに吠え、オーガロードは怒り心頭だ!
ズシン、ズシン……と、
頭から丸かじりしてやるとばかりにカールに迫る!
「うぐぐ……来るな──お、おお、俺なんて食っても旨くないぞ! イアン達の方がもっと高Lvだぞ……!!」
『───ゴァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』
「って、聞く耳持つわけなーわな!」
畜生!……どうせ食うなら、イアン達にしろよ!
「……あ、アイツラのために、やられてたまるかぁぁ!」
カールの必死の抵抗。無様に這って逃げつつも反撃開始!
武器を振り回し、生活魔法や下級魔法を放つ。
どれもこれも、パーティに何かの役に立つと思って覚えたのに───。
「聞いたぜ? お前のあの村の出身なんだって? 俺と同じだな」
「へー。【通信】か、変わったスキルだな」
(イアン……)
「はは。ゴミスキルなんていう連中のことは気にするなよ。
……【通信】便利じゃねぇかよ」
(エミリー、グルジア、バラム……!)
脳裏に蘇るイアン達の言葉の数々。
だが、今となってはそれらが全てわざとらしく思える。
「───ふさわしくねーんだよ、」
イアン、
イアン、
イアン!!
「──俺達にお前みたいなカススキル持ちの雑魚はよ」
…………………………ブチッ!
「それが、人様を囮にする言い訳か、あのくそ野郎!!───お前だけは絶対に許さねぇぇええ!」
うがぁぁぁあ!
───ブンっ!!
半ばヤケクソ、カールは荷物から短剣を引き抜くと、オーガに向かって思いっきり投擲。
たまたまそれが目に掠ったのか、奴が小さくのけ反らせることに成功!
『……ぐるぁ?!』
「今だ!!」
その瞬間を逃さず、痛む体に鞭を打って、
残るポーションをがぶ飲みしながらカールは駆けだす!
「…………はぁ、はぁ、死ぬもんか! 死ぬもんか! 死んでたまるか──────イアンの……あんな奴らの出世の肥やしになるために、あの村で一人生き残ったんじゃない!!」
何としても生き抜いてやると、固く決意したカール。
逃げれば数秒だけでも時間が稼げる。
……数秒あれば、きっとどこかに【通信】を繋げる!!
そして、事の一部始終を報告してやるのだ。
それでイアン達を断罪してやる!! 何でもかんでもうまくいくと思うなよ!!
運が良ければ近くで活動中の冒険者パーティに繋がるかもしれない!
どこでもいい、
誰でもいい!!
イアンどものような、クソどもでなければどこでも───……!
「ステータスオープン!」
ブゥン……!!
スキル【通信】起動……──────!!
※ ※ ※
スキル【通信】Lv2
※能力:SPを使用し、離れた相手と通信が可能。
あらゆる言語および技術体系に対し通信ができる。
●拡張機能:固定通信相手追加
〇通信ポイント1【雷の弾丸】
〇通信ポイント2【な し】
※ ※ ※
カールは注げるだけのSPを注いでスキルを起動した。
「メーデー、メーデー! 頼む! こちら、元『雷の弾丸』のカール・オルドビス! 現在『悪鬼の牙城』の奥で遭難中!! 頼む! 誰か」
誰か……!
……誰かッ!!
メーデー!
メーデー!
「誰でもいい、聞いてくれ! この通信が、届いてくれ……!」
届け……!
……誰かに届け!!
メーデー!
メーデー!!
「誰かぁぁぁ! 応答してくれ」
───頼む!!
メーデー!!
メーデー!!
「……助けてくれ!! いや、もう誰でもいい、聞いてくれ!!」
辺境の町ギルド支部を削除し、『固定の通信ポイント』のひとつ空になった今、
通信可能な距離にいるものに、対してなら通信が届くはず…………。
誰でもいいから─────────……。
『───ゴルァァァッァァアアアアアアアアア!!』
スキルを起動した瞬間、
カールにも大きな隙ができた。
それはホンの僅かな好きであったが、SSクラスのモンスターであるオーガロードが見逃すはずがなかった!
───ズンズンズン!!
ステータス画面を割るように、真正面から突っ込んできたオーガロードが巨体に似合わないスピードでカールを補足する!
(し、しまっ───!)
……ぐしゃ!!「げふぁぁッ?!」
ミシ……!
ミシミシ───……!
何とか逃げ回っていたカールであったが、ついにオーガロードに捕らえられる。
「がふっ……!」
その巨体に見合った巨大な腕がカールを捕まえ、ひと思いに握りつぶすッ!
「う、ぐ……。がはっ!」
全身の骨が軋む。
パタタッ……! と、血の華が咲く───。
べき、バキバキ!
すさまじい力で握りしめられ、
ついに内臓が破損し、「カハぁッ……」と、声もなく黒い血を吐くカール。
もう、ろくに息もできない……。
「は、放せ……ご、ごふぅ……!」
言葉を発するだけで肺が押しつぶされていく。
溢れる血に溺れそうになる。
く、そ……。
(……こ、ここまでか──────)
失血と窒息により、意識がもうろうとする。
(く、悔しいなぁ……)
ぼんやりとした頭の中、
見上げた空には星がキラキラと輝いていた───。
(こんな、とこで───。たった一人で死ぬなんて……)
『ゴルルルゥゥゥウ……!』
ゆっくりとオーガロードの大口に放り込まれようとするカール。
ガパァ! と開いた口が地獄の入口のようだった。
あの大口に噛みつかれれば一口で上半身が消え、
二口目にはこの世からカールの痕跡はすべて消えるだろう。
せめてもの救いは、おそらく一撃で即死だ。
……だけど、
「畜、生…………ぐぁぁ、げふ」
(イアン達の出世の肥やしのために死ぬのなんて、……絶対にゴメンだってのに!)
せめて、戦って死にたい。
自分のために……。
いや、いっそ、10年前のあの村で皆と一緒に───……。
「カール」
「カール……」
メリメリと自分の骨のきしむ音に、
再びフラッシュバック───。
───10年前のあの日……。
すべてを失ったカールに残された、誰かの言葉…………。
……地下室に隠されるカールに向かって、
「「カール」」
「困ったこと、つらいこと───
そして、助けが欲しい時には『お星様』に祈るんだよ。いいね?」
「……は、はは、」
い、祈る───……?
『お星様』に??
「あははは……」
何を馬鹿なことを思い出しているんだろう。
困ったこと。
つらいこと───。
そして、
助けが欲しい時………………。
「ふざけろ、よ」
……………………それは、まさに今。
「そうさ、今……だーっつーの。カハっ……!」
血を吐いたカールは空を見上げる。
おそらく、この世最後の光景──────……空に瞬く満天の星───。
……助けが欲しい時には、
『お星様』に祈るんだよ。
────────いいね?」
……わかってるよ。
……わかってるっつ---の!
「だから、」
お、『お星様』よぉ……。
──た、
「たす、けて……くれ」
祈ってるぞ?
困ってるぞ?
つらくて死にそうだ。
……助けが欲しい──────?
「欲しいに決まってんだろ……!」
……なぁ。
だからさ、
祈るからさ───……。
困ってるからさぁぁあ!
今すぐ……
今すぐ──────!
「今すぐ助けてくれよ……!」
頼む、助けて───。
「誰か、
誰か───………。
た…………………助けて」
「げふッ……」
ついに意識を失いかけるカール。
ガキの頃に聞いたくだらないおまじないを信じて、『お星様』に手を伸ばし、祈る。
【通信】は起動したままで、ステータス画面はオープン。
……そして注ぐSPは最大。【通信】スキルは最大出力───……。
その祈り、「助けて」というカールの【通信】は…………届く。
「助けて」
………………───ピっ!
地表から約百キロメートル。
……大気圏に達し、
そして、さらに。
「助けて!」
………………───ピッ!
地表から数百キロメートル。
……外気圏にまで達し、
そして、その先に───さらにさらに、
「助けて!!」
ピッ──────……。
地表から約数千キロメートル。
宇宙空間、低軌道上にまで───。
「……助けて」
ピ─────────…………!!
…………ビュィン♪
『───DISTRESS SIGNAL......受信』
……届いた。
ブゥン……。
※ ※ ※
●拡張機能:固定通信相手追加
〇通信ポイント1【雷の弾丸】
〇通信ポイント2【なし】
●通信ポイント固定候補
⇒冒険者ギルド辺境支部(候補消滅まで04:21)
チカッ♪ チカッ♪
⇒軍事衛星No.335(候補消滅まで09:59)(NEW!)
※ ※ ※
そう───────────……届いたのだ。
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