第7話「大成功!……したんだけど?」ライバルside

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第7話「大成功!……したんだけど?」ライバルside

「ぎゃはははははは! 見ろよ、これ!」  上機嫌のイアンが入手したばかりの『聖剣』を夜空に翳す。  そいつが星の明かりにギラリと光っていた。 「やりましたね!」 「すっご~~~~~い!! これ持って帰れば、晴れて【勇者】に認定じゃ~ん!」  今のうちに玉の輿の準備だ~! とばかりにエミリーがイアンに抱き着く。  うっすい胸を押し付けてアピールしているが、イアンには全く効果がないらしい。 「ぐひゃひゃひゃ! カールの奴も最後の最後で役立ってくれたな~! 伝説装備の入手が【勇者】認定の条件なんだ。アイツも本望だろうぜ」 「「「「あっはっはっはっは!」」」」  伝説装備を手に入れたテンションで、実に機嫌のいいイアン達。  狙い通りボスの部屋にオーガロードはいなかったのだ。  それもそうだろう。  侵入者で上質の肉であるレベル100超えの冒険者を囮に使ったのだ。  それで「奴」が追わないはずがない。 「くくく。カールの奴、今頃ひき肉かぁ?」 「すでにウ〇コかもしれませんよー、あははははは!」  カールの末路を想像して笑いあうイアン達。 「あーあー。ひっどいわねー。仲間をモンスターの餌にしちゃうなんて、アタシだったら死んでもごめんよー」 「けっ。安心しろ、お前みたいな絶壁(・・)を好んで食う魔物はいないからよ、ぐひゃひゃひゃ!」  ごんっ!! 「んだとごるぁ!! なんか言ったかぁぁあ?!」  怒り心頭のエミリーがバラムの頭を杖でぶん殴る。  もちろん、肉壁担当のバラムに効くはずもないが。 「おーこわ! くわばらくわばら」 「あ、こら待ちなさいよー!!」  ぎゃーぎゃーと喧しいエミリーたちを苦笑で見守ると、 「それよりも、早く脱出しましょう。いくらオーガロードがカールを捕食中だとしても、いつこっちに矛先が向くかわかりませんからね」  グルジアの言うことはもっともだ。  オーガロードは高Lvの冒険者を好んで食うのだ。  もちろん、その対象はイアン達にも言えること。 「だな……。カールみたいなカス、すぐに食われてウ〇コになるだろうしなー。……何せあいつは生きてる時もクソみたいなもんだったからなー」  ぎゃーーーーはっはっはっはっは──────!  キュバァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!! 「ぬぉぁ!?」 「うわぁぁあ!?」 「きゃーーーーーー!」 「あががががががががが!」  突如、空が光り、猛烈な爆風がダンジョン全体を襲った。  そのあまりに衝撃にイアン達はみっともなくゴロゴロと転げまわりあちこちの壁に頭をぶつける。  ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…………。 「い、づづづづ……」 「何ですか今のは?! 誰か魔法を使いましたか?!」 「馬鹿言わないでよ───……攻撃魔法はアンタの十八番(おはこ)でしょ!」 「いや……、っていうか、今のが魔法か?! あ、あんな爆発起こす魔法、見たことも聞いたことないぞ?!」  全員がひどく薄汚れている。  どうやら巻き上がった土砂を頭からかぶったらしい。  ……ここがフィールド型ダンジョンでなければ崩壊してもおかしくない威力だったのだから当然だろう。 「ペッ……。ひでぇ埃だ。あーくそ……。なんかやばそうだな? もしかして───」 「えぇ、きっと、魔物の仕業でしょうね……それも相当やばい魔物です」 「えぇ~! じゃ、じゃあ、もしかしてオーガロードの仕業なの?! アイツって魔法使えたっけ」 「なわけねぇだろ! どうみてもパワーファイターだしよ! つーか、このへんの情報収集はカールの仕事だったからなー」  雑用全般をしていたカールは、魔物の下調べやダンジョンの情報収集も行っていた。  今回ばかりは入念に準備していたイアン達もカールに内緒で下調べを行っていたのだが……。 「ん~む、わからんな……。オーガロードにも魔法が使えた可能性がある。カールのボケが見落としていたのかもな」 「ど、どうでしょうね? 私が調べた限りではオーガロードにこんな魔法は───」 「じゃ、じゃあ何よ? あんな大魔法を使う魔物がいるの……そんなの魔王くら、い……え?」 「「「「ま、まさか───」」」」  ゴクリ。 「じゃあなんだ? もしかして、聖剣の紛失を知って魔王が何かしてきたってことか」  バラムが言う魔王の仕業という説───……。  それがどうにももっともらしく聞こえてきてイアン達は冷や汗をかく。  タラ~リ……。 「……て、撤退だ! 急ぐぞ!」 「で、でもどうするんです?! 今の衝撃で位置が分からなくなってしましましたよ?!」 「はー?! バカじゃないのアンタ! 賢者って頭脳プレイヤーでしょ! 地図とかないのぉ?!」 「だいたい地図も何も、荷物は全部、カールに預けてるだろ! 高価なものだけは各自で持つって内部ルールだったろ?! っていうか、今さらそんなこと言ってる場合じゃないだろうが!!」  普段はカールに全てを押し付けて、それ以外は戦闘だけを考えていたためイアン達は雑用全般が全くできない。  ついでに言えばダンジョンのマッピングもカールがやっていたし、地図の管理もカールだ。  もちろん、カールを囮にする作戦を考えた時点で、「悪鬼の牙城」地図も持ってきてはいたはずなんだけど……。 「おい、地図は誰が持ってるんだよ!」 「えぇ? リーダーのアナタじゃないんですか? わざわざカール用と私たち用で買ってきたじゃないですか?!」 「ま、まさか、イアン……地図置いて来ちゃったの?!」 「おいおい、ふざけんなよ! 地面につけてた目印も、さっきの爆発でわからなくなっちまったんだぞ!」  一応、カールが残した目印も『悪鬼の牙城』のあちこちにあるのだが……。  大量の土砂が降り注いだせいで、もはやさっぱりわからない状態。  っていうか……。 「う、ぐ! うるさい! リーダーは指揮に専念するもんだろ?! 地図記入(マッピング)はお前らの仕事だろうが!!」 「はぁ?! だったら指揮してくださいよ!! イアンさんはいっつも口ばっかり!」 「そーよそーよ! 地図係くらい決めときなさいよ!!」 「だいたい、地図の読み方なんか知るかよ! そんなのは雑用の仕事だろうが!!」  ぎゃーぎゃーぎゃー!  ダンジョン奥地でいきなり遭難の危機に陥るイアン達。 「くそ! どうする?! 帰り道の見当は?!」 「あるわけないでしょうが!! いっそ、カールさんに聞けばいいじゃないですか!」 「そうね! そうしましょうよ! まだ食べられてないかもしれないし───」 「……んなわけあるか! さっき、奴の通信が来たとき真後ろにオーガロードがいたのを見ただろうが!」  くそっ!  妙案なんか沸くはずもない。  そうなったのも、  こうなったのも、ぜーーーーーーーんぶ、  雑用しかしていない、万年Cランクの、 「「「「カール、あの野郎ぉぉぉぉおおおおおおおお!」」」」  ………………なんでやねん。  ───『雷の弾丸(ブリッツクーゲル)』。  総員5名。  現在員4名。  …………絶賛、遭難中。
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