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羽化
「ドロドロに溶けて、綺麗になれるならなりたいよ…」
彼女の腫れ上がった目から涙がこぼれた。
彼女の涙を僕は忘れない。
あの日の彼女は、何も間違ったことはしていない。
いつもの様に身支度を整え、いつもの様に会社へと向かう。そんな当たり前が壊れるなんて、思うはずもなかった。
事故は突然だった。
多くの人が歩く道で、彼女を含めた数人だけが停止する気もない車の被害者となった。
彼女が僕の前で目を覚ました時、全身の痛みや麻痺した感覚で、上手く話すこともできなかった。
ただ、自分の体が、自分の思っている体ではないことを、顔を触ろうとした手を見て気付いてしまった。
半狂乱にも似た号泣。頭の中が空っぽになる程の時間泣き続けた彼女の横で、泣かないよう必死な僕に、力尽きた様に彼女が言ったその言葉を僕は、忘れることができない。
事故から18ヶ月後の今日。
裁判の判決の日。
僕は、彼女の手を取り、彼女が望む以上にゆっくりと歩く。
そんな僕に、ぎこちなく笑ういつもの彼女。
その笑顔を、大切に守っていこう。
そう決意を新たにする。
彼女が痛くない様に、少し強く手を握りながら…
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