第2話「フォート・ラグダ攻防戦(後編)」

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第2話「フォート・ラグダ攻防戦(後編)」

 ────ドカァァァァン!  盛大な爆発音のあと、正面の扉がゆっくりと倒れてくる。 「おおし! 仕上げだ──突っ込んで仕留めろおぉ!」    濛々(もうもう)とした土埃の中、ガルム達が突っ込むと──そこかしこで咳き込んでいる無法者(アウトロー)がいた。 「げ! 保安官(シェリフ)だとぉぉお!」  連邦保安官(USシェリフ)だよ! 「片っ端からやれぃ!」  雑魚どもの相手はいい──俺は首魁(ボス)を探すのみ、保安官補佐ども仕事をしろぃ! そのために連れて来たんだ。働けっ!  それよりも────。 「ビィィリィィィィィ!!」  どこだ! 一味のボス。ビリィ・ザ・サーカス!  ガルムの大声が要塞中に響き渡ったかと思うと──。 「よぉぉぉ!? ガルムのとっつぁん(・・・・・)か……?」  砦の中心。  元は司令部として使われていたらしいそこで、飄々(ひょうひょう)とした様子の青年──いや、ほとんど少年と言ってもいい風貌の男が現れる。  ロングコートを纏った、黒目黒髪、白い肌のやせた小柄の少年。顔つきは──まぁ中性的とでもいうのか、女には受けそうな顔。  こいつこそ、一味のボスで──その名をビリィ・ザ・サーカスという。 「そこか! ビリィ、今日と言う今日は年貢の納め時だな」  チャキリ──と拳銃を指向し言ってのける。  互いに視認した状態で、周囲は物凄い銃撃戦だ。  だがどっちのガンマンも、敵も味方もガルムとビリィには銃を向けない。  それが西部の掟。ボス同士の戦いに水は差さない。  そして、二人の空間がここにできる。 「やーはーはー! こんなとこまで追って来てくれるとは嬉しい限りだね」 「誰が見逃すか! かき集めた合衆国の金……返してもらうぞ!」  それだけ言うと、すかさず発砲。  パァン! と一発撃ち込めば、ビリィはひらりと身を隠す。 「おーこわいこわい! 東はニューヨーク、北はアラスカ、南はメキシコ───……あんたのしつこさには参るよ。」 「誰が好き好んで貴様みたいなガキを追い回すか!」  喋りながらも撃つ。  ────撃つ。  ──撃つ!  撃つ!!  だが当たらない。  ヌラリ、ヌラリと動くビリィ。嘘か本当か……サーカス生まれだというビリィはその身体能力をいかしたトリッキーな戦い方をする。  さらに身体能力を活かした奇抜な射撃──トリックショットを得意とし、回避能力もあいまって不死身のガンマンとして勇名を馳せる。───いや、悪名か。  パァン、パン!  ──ちぃ! 当たれぇぇ! 「武装強盗! 列車強盗! 押し込み強盗! 果ては、政府の要人をのせた馬車まで襲撃したそうだな!」  ガルムお得意の2丁拳銃で追い詰めるも、一手足りない。  あっという間に減り行く弾倉の弾──、ついには撃ち尽くす。 (くそっ!)  リロードのため一度身を隠そうとするが、敵も甘くはない!  その隙を見逃す程、ビリィが優しいとでも?  2丁同時にリロードを開始したガルムに対して、 「はっはー! 強盗、強盗! 強盗ぅぅ! 強盗団が強盗しないで何をするってんだ!?」  ばさぁ! とロングコートをはためかせると、これ見よがしにホルスターを見せる。  そして、古めかしいデザインの拳銃(ドラグーン)を──、 「ガルムのとっつぁんは、コルトかー。オッサンの癖に洒落(シャレ)た銃じゃねぇか」  ──俺はこんなに古い銃だってのに、よ!  と、言いうが早いか、目にもとまらぬ早業で銃を抜いた。  パパッパパパパン!  右手に構えた銃を腰の位置に溜め、  まるで添える様に置いていた左手で、ズババッババババ! と、銃の撃鉄を叩いて動かし連続して発砲っ。  ビリィの早射ちだ(ファニング)だ! 「ぐぁ!」  決して命中精度の高いとは言えない拳銃だが、放射状に撃つことで大雑把に薙ぎ払うように命中弾を得ることができる。  実際、ビリィはそうして高い命中精度を得ているのだ。  6発撃って一発当てる。ガンマンの常套手段だ。  そのうちの一発が狙い通りガルムに命中し、彼がガクリと膝をつく。 「よー……ロートル(オッサン)。年には勝てないって分かってんだろ?」  ビリィは余裕そうに振る舞い、キュリリリィ──と拳銃を指の先で回転させてホルスターに納めると、予備らしき同系の銃を取り出す。  ビリィの使う拳銃(ドラグーン)は薬莢を使わない旧式タイプのリボルバーで、シリンダーが薬莢の役目をするものだ。  シリンダーに直接、火薬と雷管、弾丸を封入して使うもので、リロードに時間がかかるという欠点がある。  ただ利点も、もちろんある。  頑丈さは言うまでもなく、シリンダーごと交換すればリロードの手間は省けるというもの。  実際ビリィは予備の銃の他、替えのシリンダーも持ち合わせていた。  それはさておき……。 「若造め……」  ゲフッと血を吐くガルムに────。 「お? ……なんで腹から血が出てない?」  手応(てごた)えはあったはず、確か腹に……? とビリィが(いぶか)しむ間もなく、  ふっ、 「甘いぞ若造っ! 備えあれば憂いなしだ!」  ガバァ! と起き上がったガルムは上衣を脱いで見せる。  そこには──。 「あっ。て、鉄板んんん!?」    ポロリと落ちる、鉛弾……。 「ず、ずりぃ……。卑怯だぞ! オッサン!」 「やかましい、歳の差を考えろっ!」  若くないと言ったのは、てめぇだろうが! 「保安官(シェリフ)!」  そうしているうちに、ガルムの周りにゾロゾロと保安官補佐達が集まり始める。  生き残っていた賞金稼ぎも要塞側面の崩れた壁から内部へ浸透し始めた。数は少ないが闘志は失せていない様だ。  一方でビリィの一味は一部が逃走を始め、背後を賞金稼ぎに撃たれている。  残りは建物に籠って徹底抗戦の構えだ。というより、あの建物に盗んだ金があるのだろう。  ここにいない他の連中は撃ち殺されるか、掴まって縛り上げられていた。  こいつ等ビリィ一味の賞金は生死問わず(デッドオアアライヴ)なので、生かす必要はないのだが、一応生きて引き渡した方が賞金は少し高くなる。  ちゃんと裁判をして、縛り首にするほうが抑止力は高いのだから、法務局はこの辺の金は渋らない。  人を雇うより、恐怖で縛った方が安上がりだと理解しているのだろう。 「ぐぬぬぬ……」 「さぁ、今度こそ年貢の納め時だな」     ジャキキキキキキキィン! と一斉に向けられる何十丁もの銃にさすがにビリィも観念したのか、 「わぁーった、わぁーったよ……」  ポイっと銃を捨てると、降伏の意思を示すために両手を上げる。 「ほう? (いさぎい)いな?」 「こうも囲まれちゃあねぇ~へへ、最後に一服いいかい?」  チラチラと、上衣のポケットに目くばせしてタバコを所望するビィト。  確かにポケットが膨らんでいる所をみればそこに何かが入っているのだろう。 「良いだろう。だが──」  ガルムは、ビィトの手を降ろすことは認めずに、自らの懐からタバコを取り出すと火を付けて咥えさせてやった。  紙巻きタバコの……安い奴だ。 「おえっ、これオッサン臭ぇぜ……」  まだ10代だとかいうこのクソガキは、飄々(ひょうひょう)(のたま)う。  これから連行されて、下手をすれば裁判抜きで縛り首もあるというのにこの余裕────。 「吸い終わったら手下に武装解除するように言え。お前は無理だが……手下の助命は認めなくもないぞ」  ──助けるとは言っていない。  一方で、  チリチリ燃え溶けていくタバコの煙を、吹かして楽しんでいるらしいビリィは、「んー」と考える素振り。 「時間稼ぎは通用せんぞ……吸い終わったらお前の指示がなくとも、手下は皆殺しにしてやる」 「やれやれ物騒だねー……ところでよ、」  タバコを落とすことなく喋るビリィは、 「──俺ッチが盗んだ代物(しろもの)にはよー……軍が護衛してる要人の貴重品があってだな」  ん? 「何の話だ?」  いやいや、 「まぁ聞けよ」  ビリィは幾分短くなったタバコを惜しみつつ、 「──妙な『品物』とともに、外国の要人がいてな。そいつが死ぬ間際に、これまた……とんでもないことをしでかそう(・・・・・)としたわけだ」 「おい、何が言いたい?」 「いやー……妙な『石』一個を護るためか、あるいは破壊するためか知らねぇけどよー……ダイナマイトをたっぷりと石に仕掛けてやがったのよ」  はぁ? 「でー貴重なもんだと思って貰ってきたは良いけど、その『石』が何なのかサッパリわからねぇ」  チラリとポケットに視線を寄越す。その石とやらが、そこに入っているという意味だろうか。 「もういいっ! ……時間稼ぎは終わりだな。さぁ、降伏するか皆殺しか──」 「へへへ……その時のダイナマイトはどうしたと思う?」  …………。  !? 「お前!?」 「いやー……勉強させられちまったよー、その外国人にな。……東洋人らしいけど、見上げた根性だね。大事なものを護るためなら、自爆しろってなもんさ」  プッ、とタバコを吐き出すと同時に、ビリィが素早く口笛を吹く。  ──ピュゥイ♪ と風に乗ったそれは、建物に立て籠もっているビリィの手下に届いたらしく……。 「はい、チェックメイトー」  バチバチッ、と脂の弾ける音をたてて松明を持った男が出てくる。  ……なるほど、木箱に入ったダイナマイトをこれ見よがしに示しているじゃないか。  そして、 「あの建物にゃあ~、多数のドル紙幣やら連邦銀行の金貨や金塊がある。吹っ飛んだら……さぞ圧巻だろうぜー」  イヒヒヒヒと、悪戯っぽく笑うがちっとも可愛くない。 「貴様ぁ! ……それで逃げられると思っているのか!?」  ビリィはどちらも手を出せない状況を生み出したようだが……殺気だった保安官補佐達に賞金稼ぎども。こいつらは最悪の場合何が起こっても強硬しかねない。 「んー……逃がしては──くんないよね?」  ビリィが可愛らしく首を傾げるが、  当たり前だっ! とばかりに、何人かが拳銃の撃鉄を起こす。  今にも発砲しそうで気が気ではない。 「イヒヒ! そう来なくっちゃ……で、だ──オッサンよ。こーいう時は、あれだろ? ──ほら、」  ニカッと屈託ない笑いの先に──。 「決闘しようぜ?」
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