ちゃっちゃと撃て──

1/1
前へ
/27ページ
次へ

ちゃっちゃと撃て──

 ところかわって──。  カッポ、カッポ……と、蹄の音も滑らかに、隕石孔の縁に整列した騎兵隊。    カポポポッ!  一騎が馬を寄せて女将校に話かける。 「少尉(ルテナン)! 煙です! 爆発があった模様」 「見えてるわよー」  双眼鏡を構えた女将校は、しかとフォート・ラグダを視界に収めていた。  彼女の視線の先──。  煙が出ているのは、正面の門付近。  おそらく、ダイナマイトで爆破して突破したのだろう──と、当たりをつけた。  そして、要塞周辺に散らばる複数の遺棄死体の様子から、戦闘があったのはついさっきのことだとわかった。  なにせ上空を舞っている禿鷹(はげたか)どもはまだ餌にあり付いていない。  死体をチラリと一瞥し、再び要塞内部を観測する。 「あらー? ……見た顔ね」  視線を走査していくと、  要塞の中心付近で、外の武装集団を率いる男と──一人の少年が向かい合っている。  確か……あの男の表情には見覚えがあった。  同時に女将校の部下も気付いたらしく、 「あの男は……──例の酒場にいた?」 「そうねー」  酒場で軍曹と呼ばれていた男が『ガルム』を見付けた。 「まんまと出し抜かれたわー。ま、荷車引っ張ってちゃ牛歩になるからしゃーないんだけどねー」 「なるほど、内偵か何かで潜り込んでいた保安官か賞金稼ぎですかな」 「多分ね。──あらやだ、人の話を盗み聞きするなんて(いや)らしいわね」  まったくです。と軍曹は肩をひそめる。 「それに、懐かしい顔だわー……ビリィったら、最近活躍してるのは聞いていたけど──」  ──ここで会うとはねー。運命って奴?  「なーんてね」と、一人で納得している女将校。 「ビリィ? ……例の賞金首ですな。たしか昔の──孤児仲間とおっしゃいましたね」 「そんなとこ……さて、」  出し抜かれたという割に、特に悔しがる様子もなく、女将校は双眼鏡にて全てを確認する。 「ま、いいわ。どの道同じこと────ちょ~~っとばかし死体が増えるだけね」 「準備しますか?」 「お願いねー。小隊主力は私が直率するから、軍曹はパーティの準備を」 「了解(アイサー)!」  バシと、敬礼を決めた軍曹はすぐに背後に下がると、後ろに控えていた荷馬車や荷車隊に指示をし始める。  全員軍人で総勢30名ほど。  青い制服の、アメリカ陸軍騎兵隊。  馬車の数は3つ。それぞれ2頭立てで曳いている。  そして、更に馬車というより──荷車が2つ。それは布で覆われているが……なんだろう?  妙な出っ張りの突き出した……あの形状は──。  その荷車に兵を取りつかせつつも、テキパキと指示をしながら二つの梱包を解いていく軍曹。  部下の動きに満足げに頷くと、それを尻目に女将校は騎兵を呼び集める。  軍曹ら馬車の行者やらを除いて、女将校を含めて約20騎が彼女の下に集結する。  カッポ、カッポ──と危なげなく整列する隊列を満足そうに見た女将校は、 「傾注(アテンション)!」  ガガガン! と、将校の号令に意義を正す兵士たち。 「紳士の諸君(ジェントルメン)さぁ(レッツ)、お仕事しましょうか(・パァリィー)?」 「「「了解、隊長(イエス、マム)!」」」  バババババ、ビシィィ!  と揃った敬礼を受けると、それはそれは一層綺麗な笑顔をもって返礼。 「軍曹の準備が整い次第、突撃開始────らっぱ手は号令の準備をして。さぁ……盛大に行くわよー。捕虜は──」 「「「必要なし(ジェノサイド)!」」」 「……よろしい(グッドメェン)」  ニッコリ──。  キラキラと輝く金髪が風に泳ぐ。  まだ若いというのに、この女将校……凄まじい統率力である。  更に見事な馬術で、カポポッと馬首を正面に巡らせると、一気に駆け降りんとばかりに眼下を見据え──。  軍曹の準備(・・・・・)とやらを待つ。  すると、場の雰囲気が整ったのを見計らったように、  ビュウゥウウゥウ~……と一陣の風が抜けた──。  そこに、  ヨロヨロと巫女(シャーマン)装束の老婆が女将校達の下へ近づいてくる。 「やはり戻ったか……白き悪魔たちよ──」  その様子に、兵の一人が銃を構えようとするが──女将校は手で兵を制すると、 「あらまあ、お祖母ちゃん……なにか用かしら?」  話せと促す。  非武装であることはチラリと確認していたようだ。 「あの要塞が欲しいか? 悪魔ども。大地の精霊(グレートスピリット)は猛り狂っておるよ。男どもの犠牲では足りんと、な」 「あらー? 先住民の予言って奴? ふふふ、これから何が起こるのかわかるのかしら?」  さも興味深いと、女将校は言うが、 「浄化よ──貴様らの(けが)れた魂と穢された大地は、大地の精霊(グレートスピリッツ)により、浄化されるのよ」  ハハハハハハハハハハハハ、とガラガラヘビの尻尾の様に耳障りな声で笑う老婆。  しかし、女将校は特に気にした風もなく、 「浄化ねー……」  フ、と顔をほころばせると、 「その言い方なら、元の大地は清浄で、住んでいた貴方達も清浄だったという事かしら?」  女将校の言い分に、「あぁん?」と怪訝な顔をする老婆。 「くっだらないわねー……この世はすべからく(・・・・・)クソなのよ……綺麗も(けが)れもないわよー」  そうよ、全てがクソまみれ。  み~んな、クソまみれ♪ フフフフフ──と、乾いた笑みを浮かべる。 「な……にを、言うておる?」 「私達が(けが)れていて貴方達が清浄だなんて……誰が決めたの? 神? 大地の精霊? ……それともアナタ?」  ウフフと、口元を歪めた女将校は、意地が悪そうに詰問する。 「もちろん大地の精霊(グレートスピリッツ)じゃ」 「あらそー? なら大地の精霊さんとやらは──」    随分と美醜(・・・・・)の感覚がおかしい(・・・・・・・・)のねー、と締めくくる。    そして、 「人間は総じてクソなのよ。この世界も、──私もアナタも、ね」  シュランッ! と、腰のサーベルを抜くと頭上に構える。  斬られると思ったのか、老婆は身を固くするが……。 「見てなさい、これから人間に何が詰まっているのか──教えてあげる」  スっと、  剣先をフォート・ラグダに向ける。 「総員(オールメン)突撃準備(・シャルウィダンス)」  ブワリッ! 闘気と殺気が高まる──。  そして、その介添(かいぞ)えたる準備が出来たと軍曹が告げる。 「少尉(ルテナン)! 準備完了(タリホー)!」  あら? イイ子ね──。  バシっと敬礼をした軍曹が報告。  それに対し、  答礼してから、ニコっと微笑み返すと、  じゃ──。 「ちゃっちゃと(トゥインキィ)撃てっ(ファイア)」  ──ずどぉぉぉぉおおおおおん!
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加