0人が本棚に入れています
本棚に追加
ちゃっちゃと撃て──
ところかわって──。
カッポ、カッポ……と、蹄の音も滑らかに、隕石孔の縁に整列した騎兵隊。
カポポポッ!
一騎が馬を寄せて女将校に話かける。
「少尉! 煙です! 爆発があった模様」
「見えてるわよー」
双眼鏡を構えた女将校は、しかとフォート・ラグダを視界に収めていた。
彼女の視線の先──。
煙が出ているのは、正面の門付近。
おそらく、ダイナマイトで爆破して突破したのだろう──と、当たりをつけた。
そして、要塞周辺に散らばる複数の遺棄死体の様子から、戦闘があったのはついさっきのことだとわかった。
なにせ上空を舞っている禿鷹どもはまだ餌にあり付いていない。
死体をチラリと一瞥し、再び要塞内部を観測する。
「あらー? ……見た顔ね」
視線を走査していくと、
要塞の中心付近で、外の武装集団を率いる男と──一人の少年が向かい合っている。
確か……あの男の表情には見覚えがあった。
同時に女将校の部下も気付いたらしく、
「あの男は……──例の酒場にいた?」
「そうねー」
酒場で軍曹と呼ばれていた男が『ガルム』を見付けた。
「まんまと出し抜かれたわー。ま、荷車引っ張ってちゃ牛歩になるからしゃーないんだけどねー」
「なるほど、内偵か何かで潜り込んでいた保安官か賞金稼ぎですかな」
「多分ね。──あらやだ、人の話を盗み聞きするなんて厭らしいわね」
まったくです。と軍曹は肩をひそめる。
「それに、懐かしい顔だわー……ビリィったら、最近活躍してるのは聞いていたけど──」
──ここで会うとはねー。運命って奴?
「なーんてね」と、一人で納得している女将校。
「ビリィ? ……例の賞金首ですな。たしか昔の──孤児仲間とおっしゃいましたね」
「そんなとこ……さて、」
出し抜かれたという割に、特に悔しがる様子もなく、女将校は双眼鏡にて全てを確認する。
「ま、いいわ。どの道同じこと────ちょ~~っとばかし死体が増えるだけね」
「準備しますか?」
「お願いねー。小隊主力は私が直率するから、軍曹はパーティの準備を」
「了解!」
バシと、敬礼を決めた軍曹はすぐに背後に下がると、後ろに控えていた荷馬車や荷車隊に指示をし始める。
全員軍人で総勢30名ほど。
青い制服の、アメリカ陸軍騎兵隊。
馬車の数は3つ。それぞれ2頭立てで曳いている。
そして、更に馬車というより──荷車が2つ。それは布で覆われているが……なんだろう?
妙な出っ張りの突き出した……あの形状は──。
その荷車に兵を取りつかせつつも、テキパキと指示をしながら二つの梱包を解いていく軍曹。
部下の動きに満足げに頷くと、それを尻目に女将校は騎兵を呼び集める。
軍曹ら馬車の行者やらを除いて、女将校を含めて約20騎が彼女の下に集結する。
カッポ、カッポ──と危なげなく整列する隊列を満足そうに見た女将校は、
「傾注!」
ガガガン! と、将校の号令に意義を正す兵士たち。
「紳士の諸君、さぁ、お仕事しましょうか?」
「「「了解、隊長!」」」
バババババ、ビシィィ!
と揃った敬礼を受けると、それはそれは一層綺麗な笑顔をもって返礼。
「軍曹の準備が整い次第、突撃開始────らっぱ手は号令の準備をして。さぁ……盛大に行くわよー。捕虜は──」
「「「必要なし!」」」
「……よろしい」
ニッコリ──。
キラキラと輝く金髪が風に泳ぐ。
まだ若いというのに、この女将校……凄まじい統率力である。
更に見事な馬術で、カポポッと馬首を正面に巡らせると、一気に駆け降りんとばかりに眼下を見据え──。
軍曹の準備とやらを待つ。
すると、場の雰囲気が整ったのを見計らったように、
ビュウゥウウゥウ~……と一陣の風が抜けた──。
そこに、
ヨロヨロと巫女装束の老婆が女将校達の下へ近づいてくる。
「やはり戻ったか……白き悪魔たちよ──」
その様子に、兵の一人が銃を構えようとするが──女将校は手で兵を制すると、
「あらまあ、お祖母ちゃん……なにか用かしら?」
話せと促す。
非武装であることはチラリと確認していたようだ。
「あの要塞が欲しいか? 悪魔ども。大地の精霊は猛り狂っておるよ。男どもの犠牲では足りんと、な」
「あらー? 先住民の予言って奴? ふふふ、これから何が起こるのかわかるのかしら?」
さも興味深いと、女将校は言うが、
「浄化よ──貴様らの穢れた魂と穢された大地は、大地の精霊により、浄化されるのよ」
ハハハハハハハハハハハハ、とガラガラヘビの尻尾の様に耳障りな声で笑う老婆。
しかし、女将校は特に気にした風もなく、
「浄化ねー……」
フ、と顔をほころばせると、
「その言い方なら、元の大地は清浄で、住んでいた貴方達も清浄だったという事かしら?」
女将校の言い分に、「あぁん?」と怪訝な顔をする老婆。
「くっだらないわねー……この世はすべからくクソなのよ……綺麗も穢れもないわよー」
そうよ、全てがクソまみれ。
み~んな、クソまみれ♪ フフフフフ──と、乾いた笑みを浮かべる。
「な……にを、言うておる?」
「私達が穢れていて貴方達が清浄だなんて……誰が決めたの? 神? 大地の精霊? ……それともアナタ?」
ウフフと、口元を歪めた女将校は、意地が悪そうに詰問する。
「もちろん大地の精霊じゃ」
「あらそー? なら大地の精霊さんとやらは──」
随分と美醜の感覚がおかしいのねー、と締めくくる。
そして、
「人間は総じてクソなのよ。この世界も、──私もアナタも、ね」
シュランッ! と、腰のサーベルを抜くと頭上に構える。
斬られると思ったのか、老婆は身を固くするが……。
「見てなさい、これから人間に何が詰まっているのか──教えてあげる」
スっと、
剣先をフォート・ラグダに向ける。
「総員突撃準備」
ブワリッ! 闘気と殺気が高まる──。
そして、その介添えたる準備が出来たと軍曹が告げる。
「少尉! 準備完了!」
あら? イイ子ね──。
バシっと敬礼をした軍曹が報告。
それに対し、
答礼してから、ニコっと微笑み返すと、
じゃ──。
「ちゃっちゃと、撃てっ」
──ずどぉぉぉぉおおおおおん!
最初のコメントを投稿しよう!