第3話「早撃ち」

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第3話「早撃ち」

 ──決闘しようぜ?  ビリィの挑発に、ガルムはまんまと乗ってしまった。  こんな状況だ、ビリィを撃ち殺してから──隙を見てダイナマイト持ちをぶっ殺せばいいだけだったのだが……。 (ガンマン冥利(みょうり)ってやつかな)  ガルムは、そう一人ごちる。  そうして互いの勢力が見守る中、場が整えられていく。  ガルム側の保安官補佐たちと、ビリィの手下が協力して戦場整理を行う。  まずは、死体をどかして──自分たちは流れ弾に当たらぬよう物陰に隠れつつ注視するのだ。  さて、  ヒュウウゥゥー……──と、風が吹く中で、互いのボスがノッシ、ノッシと進み出る。  そして、数歩の距離をおいて向かい合い、クルリと背中を向けた。  この時点で場のボルテージは最高潮。  ガルムとビリィは背中合わせになり、約束事。  ──互いに十歩あるいて銃を抜く。  ……それだけ。ルールは他になし。 「どうだい?」「いいだろう」  ひとこと了解を得て、どちらも納得。  ガルムが死ねば、ビリィ達は逃げる時間を得る。(約束を守るとは言っていない)  ビリィが死ねば、ダイナマイトを開放し、盗品を明け渡す。(約束を守るとは言っていない)  単純明快。西部の掟はこうでなくっちゃな。 「じゃ、いくぜ」「あぁ、来い……若僧」  どちらもあっさりとしたものだ。  十歩の距離なら拳銃の命中圏内。  射撃に慣れている者なら必中距離でもある。  もっとも、後ろを振り向いての不安定な射撃だ。早々一発で当たるかと言われれば…そうもいえない。  一歩、  二歩、  ジャリジャリ、と砂を弾く音が響き、互いに背中に神経を集中しながらも、腰のホルスターを抜くイメージを体に染みつかせる。  三歩、  四歩、  五歩、  ジャリ……。  ガルムはイメージする。  十歩目の足がつくと同時に体を中腰にして、右手の銃を引き抜く。そして、体を捻りつつ早撃ち(ファニング)だ。  一発では命中が望めないだろうから、6発全部をばら撒く、  六歩、  七歩、  そしてさらに念のため左でもう一丁抜き、右手を使って早撃ち(ファニング)の6発……。  一丁ずつだ──。  2丁でのそれぞれ片手射ち(サミング)では速度で撃ち負けるだろう。  八歩、  九歩、  奴の早撃ちが先んじていたとしても、体はボディアーマーで補強している。  衝撃に耐えさえすれば、撃ち返すことができる。  むしろ、体の柔軟性からみても、ビリィのほうが早いと思った方がいいだろう。  十歩──────パパパッパパパン!  素早く振り返ったガルムは、イメージ通り右手で抜き──左手を使っての早撃ち(ファニング)でビリィを薙ぎ払った。  全弾撃ち切ったことを知ると素早く銃を持ち替えようとするが───。  あ゛ぁ゛ん゛──?  そもそもビリィは!? 「なん、だ───そりゃ!?」  ビリィはいた。  元の位置からそう変わらず約束通り十歩進み───。  体をぐにゃりと曲げる奇妙な動き。まるで寝そべっているかのごとく体を曲げているが、 「サーカスにゃ、リンボーダンス(・・・・・・・)ってのがあってだね──」  イヒヒヒヒと笑うと、  ──パパパパパパパパパン!  と、9発の射撃音。 「ぐぅぉ……」  何発かが、ボディアーマーに命中したらしく、巨大なハンマーで殴られたかのような衝撃が体を貫く。  ギィン、ガィン! と反跳音が響き、ポロポロと落ちる鉛弾から見ても、貫通弾はないが────。  ないが──……いってぇぇぇ! 「へへへー……不格好だけど、こいつぁいい銃だろう?」  ジャキリ! と構える銃は、ハイブリッドガン。  散弾を装填できる銃身を軸(・・・・)として太い形状のシリンダーが軸を覆う、九連発のリボルバーだ。  撃鉄を押し込めば、軸になっている散弾も発射可能というちょっとズルい奴。 「くそ…」  卑怯な──と、言おうと思ったが……ルールは十歩歩いて撃つ、だけだ。  ガルムとて2丁拳銃なのだ、一概に卑怯と相手を批判できないだろう。 「やっぱ、その分厚い鉄板は抜けないかー」  ジャリ、ジャリ、ジャリ……と、砂を弾きながら軽い足取りで近づくビリィ。  手に持つハイブリッドガンの軸──散弾の発射孔がギラリと光る。 「なら、コイツで決まりだな」  あばよ──ロートル。  撃たれて死ぬ……そう思ったとき、見守っていた保安官補佐達が動き出そうとしていた。  決闘の勝ち負けに限らず、皆殺しにする気なのだ。  それはガルムとて望むところ、みすみすビリィを逃がしてやる気はない──。 「全員──」  と、ガルムが叫ぼうとしたとき……。  ヒュルウゥルルルルルルルルル……。  ズガァァァァァァン!! と、爆発が起こり、ビリィの手下が隠れていた櫓の一つが崩れ落ちていく。 「え?」「なっ!?」  ガラガラガラッ! 高い櫓が倒れて、見張り台にいた一人が爆散する。  辛うじて生き残っていた奴も爆炎に巻かれて物凄い絶叫を上げていた。  その光景は余りにも非現実すぎて……。  ビリィはもとより、ガルムにも信じられなかった。 「なにすんだよ!?」「なにをした!?」  ビリィと、ガルムは互いに相手を非難して気付く。  これは───。  不測事態!?
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