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第4話「闖入者」
「なにすんだよ!?」「なにをした!?」
ビリィと、ガルムは互いに相手を非難して気付く。
これは───不測事態だと!
そして、さらに悲劇は続く。
ヒュルルルウルルルルルルウル……──。
空気を切り裂く音。
身を竦めさせる、恐ろしい魔女の声──!
ビリィの手下が悲鳴をあげて地面に伏せる。
ガルム側の保安官補佐達も右往左往。
誰も事態が理解できていない。
ガルム一人を除いて──。
(こ、こ……。これは────知ってるぞ!?)
従軍経験のあるガルムは、この音に覚えがあった。
南北戦争時代……何度も陣地に撃ち込まれた経験がある。
ドカン、ドガン! と、地面を耕し──兵士をパンケーキみたいに吹っ飛ばす恐ろしい武器。
(忘れられるものか……巻き上がる土塊と、人体と臓物と──)
──これは……。
「榴弾砲だ!」
「はぁ!?」
間違いない。
どっかのバカがここに撃ち込んできやがったんだ!
「おい、全員避難しろ!! 早く!」
ガルムの動きは早い。既にここが標定(狙いをつけること)されているのは間違いないとすぐに理解に至った。
だが、保安官補佐達にそれが伝わらない。
ノロノロした動きにヤキモキとする。
(くそっ!)
射程から考えても、隕石孔の縁から撃ち込んでいるに違いない。
それを鑑みても、──誤射のはずがない。ありえない。
こんな見通しのいい場所だ。
たっぷり時間をかけて観測しているだろうに、
……ならば、どれだけ下手な砲手でも、敵味方の区別くらい付けているはずだ。
つまり──誤射じゃない、狙っている!?
そう、この撃ち方────!
狙いはここにいるもの全員だ。
クソ!
俺は連邦保安官だぞ!
合衆国の保安官だぞ!
田舎の保安官とはわけが違うっっ!
「ガルム! てめぇえぇぇ」
綺麗な顔を歪めたビリィが、普段の飄々とした雰囲気をひっこめて怒り狂っている。
「俺じゃない! ……こんなことをするのは──」
思い至るのは一つ。
この場所を特定したあの女将校───つまり、軍だ!
「はぁ? 軍隊だぁっぁ!?」
ポカンと口をあけたビリィ。よほど意外だったのだろう。
通常、軍隊が賊を取り締まることは、──州知事の要請でもない限りあり得ない。
本来なら、それは警察権力の範疇だからだ。
しかし、犯罪集団の規模が大きくなればその限りではない。だが……ビリィ達の一味が軍を呼ぶほどのものかと言えばそんなことは無かった。
実際、ガルム達だけで十分に圧倒できた。
ならば、なぜ?
何のために軍隊が──?
「親分!」
別の櫓にいたビリィの手下が外を指さしている。
今度はなんだ!?
その先を見ようと、要塞の壁に取りついたガルムとビリィ。……一時休戦だ。
「んっだ……ありゃ?」
「アメリカ陸軍、騎兵隊だ! ──精兵だぞっ」
……控えめに言って勝ち目がある相手ではない。
ドドドォ、ドドドォ──と、馬蹄が大地を踏み鳴らす音すら聞こえる。
しかも、大砲の援護付き。──ドッカァァッァン!
「くそ! なんだってこんな?」
ガルムが様子を窺っているうちに、外で負傷して固まっていた賞金稼ぎどもが騎兵隊に取りつかれていた。
一応、彼らには連邦保安官の雇い人である事証明するバッジと、敵味方認識用の腕章を渡していたので、安全なはずだが……。
ギャアアアアアアア!
見る間に、サーベルで首を切り落とされる賞金稼ぎ達。
どう見ても確実に殺しに来ている。
一度くらいなら誤認もあり得るだろうが、執拗に後続までもが続けて攻撃している。
どう見ても、生かして帰す気がないそれだ。
そして、鮮血を浴びた一番槍の騎兵には見覚えが──……。
「やはり、あの女────!」
その女が、
顔についた血をペローリと一舐めすると、すぐに要塞に取りつく、
「突撃、突撃、突撃ぃぃ、殲滅なさい」
「「「「「了解!!」」」」」
そう言ってべったりと血のついたサーベルを、ヒュパン! と血振りすると、鞍の後ろの乗せていた老婆を降ろした。
「ね? クソが詰まってるでしょ?」
ドクドクと血だまりに沈んで絶命している賞金稼ぎを示すとニッコリ。
「さぁぁって、始めましょうか」
「大地の穢れ……」
嘆かわしいとばかりに、天を仰ぐ先住民の老婆。
それを無視すると、女将校は馬から降りて──、
「はーい。中のお兄さん方? 今からぶっ殺しに行くけど、」
────覚悟はいい?
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