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第7話「石──導く」
つっこめええええぇぇぇ!!
応よッッ!
ビリィに言われるまでもなく、ガルムは手綱を狩り一気に躍り出る。
ブワワッァァ! と風を受けると外に出た実感を感じる。
直後、石からの光が収まり────、
「右だぁぁぁ!!」
ホッとして気を抜いたガルムを押し退けビリィが馬車を右へ傾ける。
その背後から─────ゴォォォオオオオオオオオンン!! と、爆風が地下通路から噴き上げ空へと昇っていく。
馬車の後尾が僅かに焦げ……間一髪であったことを教えてくれた。
「あ、あっぶねー……」
「し、ししし、死ぬかと思ったぞ……」
ガラガラ、ガラ……ガラ───。
ブルルルルルと、馬が嘶き馬車を止める。
どうやら危機は脱したらしい。
(どこだここは?)
ガルムは行者席から周囲を見渡す。
ギラリと照りつける太陽を感じたかと思うと──。
ギャーギャーギャー……!
コァコァコァ、コアカカカカカカカ……!
ジーワ、ジーワ、ジーワ、ジワワワジー……!
と、聞いたこともないような鳥獣の鳴き声の響く場所だった。
虫の声も、あの喧しい蝉のような声が混じっている。
──要塞裏手にこんな緑が?
むせ返るほどの緑の臭い……。
ビリィは目立たない水源地だと言っていたが……どうみてもこれは目立つだろう。
一体どこに出た?
感覚的にも、常識的にも要塞から数十メートルほどしか離れていないはずだが……こんなに緑は豊かだったか?
「オッサン! ぼやっとすんな! エリナ姉ちゃんはおっかねぇぞ!」
ドカッと行者台に割り込むと、手綱を奪い取る。
そして、ガラガラと馬車を駆るが……実に動きづらい。
やたらと生えている草が絡み付くのだ。
「まだ追ってくるか?」
「当たり前だろ! あの御人はおっかねぇんだよ!」
首をすくめて、さも怖いですとばかりにアピール。
「とんだ幼馴染だな……──さっきの石はどうした?」
やたらと光っていた石。それのことだ。
「ん? あー……一応ポケットにしまってるよ──高価なものかもしれないからな」
ニヒヒと悪戯っぽく笑うビリィ。
そう簡単にお宝は捨てません! ってか。呆れた奴だ。
「言ってなかったっけ? ほら、決闘の前に話した──要人から奪った高価な品の話」
「要人の馬車襲撃のときのか?」
「おやぁ? それって有名なの?」
あっけらかんと言ってのけるビリィ。
「当たり前だ。外国の要人だぞ! 国の威信が掛かってるんだ──…………ッ! まさかそれで……?」
話ながら思い至った答え。
そう──────。
突然現れたアメリカ陸軍騎兵隊。
……奴等がビリィを捜索していたことからも、無関係とは思えない。
「へー……こんな石がね?」
ヒョイっとポケットから取り出したそれは、何の変哲もない丸っこい石だ。
砂利道で落としたら二度と見つけられないかもしれない。
「たしかに、厳重だったな? この石を奪った時の護衛も、エラく腕の立つ奴でさ……ダイナマイトを全身に巻いて、剣を手にして石ころを守ってやがんの」
へへへ、でも──もう俺のもんだけどなーと悪びれることもなく話すビリィ。
「ケリがついたら、返してもらうぞ!」
こんなチンケな石一個で、軍に追われるなどシャレにならん。
まぁ、これが原因かどうかは知らないが……。
「そんなことよりも!」
突然居直ったビリィが、ガルムに水を向ける。
「どこだよここは!?」
…………は?
「くそ! いつの間に生えやがった? こんなに草があるわけが───」
そう言ってビリィは背後を振り返る。
そこには、
「なん、っだありゃ?」
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