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第1話「ウェストワールド」
ウェストワールド。
デッカイ大陸の中央部。その、乾き……荒れ果てた不毛の土地を、人はそう呼んだ。
大陸の北と西で猛威を振るう魔王軍。
反対の南と東で平和を享受する人類。
その互いの勢力が拮抗し、いわゆる権力の空白状態になっているのが、この荒れた土地──ウエストワールドだ。
ここは、人類と魔王──両方の文化圏の空白地帯で、どちらの勢力からも末端。
ここにあるのは、砂漠と荒れ地。
そこにいるのは、ならず者とモンスター。
ひとことで言ってしまえば、ロクでもない土地だ。
だが、
そんな辺鄙で荒れた土地にも人はいる。
なんたって環境適応力抜群の人類。
──奴らはどこにでもいる。
そう……このウェストワールドにも、だ。
※
ひゅぅぅぅぅ~…………。
コロコロコロ……。
肌を叩く砂交じりの風に吹かれて、草型モンスターの死骸が転がっていく。
その先には砂礫の埋もれそうな……まるで、蜃気楼のように浮かび上がる閑静な街『グッドリバー』があった。
そこはウェストワールドのほぼ中央に位置する──何の特徴もない田舎町。
街の特産品はガラス細工に、魔物の骨を加工したボーンアクセサリー。
あとは、少々の毛織物と荒野の植物の加工品があるだけ。
街の外観を見ても分かるとおり、大したものがあるわけでもない。
主要な施設はといえば『ギルド』と仕立て屋と武器屋。それに道具屋がいくつか。
その他は、ありふれた生活用品を売る店舗がいくつか軒を出しているのみ。
あとは、ボロボロの民家が並ぶ──どこに出しても恥ずかしくない田舎だ。
そこにすむ住民も、乾燥に強い作物を育てる農民か、ウシ型モンスターを飼う畜産業を営む者がいる程度。
あとは職人や、春を売る娼婦が一握り……。
残りは、ギルドに出入りする冒険者や、荒野の植物なんかを採り──たまに物々交換に訪れる原住民がいるくらい。
そして、ここ。
その主要施設である当のギルド。
ここは昼夜問わず冒険者が出入りしており、この閑静な街では唯一と言っていいほど活気のある場所だ。
では視点をギルドに向けて見よう。
さて、ギルドでの一日はと言えば、世界中どこも替わり映えのしないもの。
この街も同じだろうと、中を──と見れば、
スイングドアで隔てた先にあるのは、酒場と併設されたギルドの窓口。
そこには、ギルドの受付嬢と素材換金所が並んでいるという、やはりどこにでもあるギルドの一般的な風景だ。
そこには雑多な人種がひしめいており、
真面目な冒険者は、せっせと小銭を稼ぐため窓口に並ぶ。
一方で、
不真面目な冒険者と普通の冒険者は、ぼんやりと酒場で安酒をかっ食らいつつ管を巻く。
だが、世間のギルドとは少しばかり事情が異なるようだ。
いわゆる、誰もが想像するような、ギルドの明るい雰囲気はなく……むしろ、このギルドの雰囲気は活気とは程遠いもので、なぜか暗く沈んでいた。
その原因はおそらくあれだ。
ギルドの窓口にデカデカと貼られた依頼板。
そこに張り付けられた一枚の大きな依頼書───「ゴブリンの巣の討伐」のそれが原因らしい。
……よく見れば依頼失敗と、行方不明者の数がズラーリ。
どうやら、厄介なクエストらしい。
報酬は順次引き上げられているが、もはや達成不可能なのは誰の目にも明白だ。
だからだろうか……?
ギルド全体には、陰鬱な空気が漂っている。
そんな冒険者の中には、陽の高いうちから酒を浴びるほど飲んでイビキをかいている奴もいる始末。
とくに目立つのが、ガーガーとでっかいイビキをかく二人組。
その二人組は、ドン! と置いた酒の小樽を挟んでテーブルで向かい合い──一緒にグースカと寝ているものだから無防備極まりない。
……実際何人かの冒険者が、二人組から盗みを働かんとしてチラチラと隙を窺っているようだ。
さて、そんないつもと変わらぬギルドの日常で、
──この日ひとつの大事件が起こる。
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