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第6話「故郷に帰んな───」
シーーーーーーーン、と静まり返ったその場。
勝敗を告げるべきギルドマスターは硬直している。
いや、ギルドマスターだけではない。
観客全員。勇者パーティのメリーですらポカンとしている。
全く動揺していないのはガルムただ一人……。
(ゲフ……まだ終わりじゃねぇぞ!)
──まだだ!
(そうだ……まだ終わっちゃいねぇ───)
薄れゆく意識の中で、
(グフッ、どこだ──ファマック……?)
頼れるパーティメンバーのファマックに呼びかける。声は出ずとも状況は理解できているはずだ──。
だからよぉ……。は、はやく──。
どこかに隠れてガルムを狙っているはずの仲間。
幸い姿を探すまでもなかった。倒れて天を向いているアレスの目に二人の人影が映った。
いた!!
(ファマック! ────やれぇぇぇ!)
…………。
あれ?
ふた……り?
ファマッ──ク?
と、
(誰──だ?)
一人はファマック。それは分かる。
ギルドの隣の民家の屋根に登って杖を構えている───狙撃魔法を放とうとしているのだろう。
あの場所には浮遊魔法で──……。
そして、もう一人……? だ、だれ?
あれは……──ガルムの仲間?
(な、何を──?)
そいつがアレスを見てニヤリと笑う。
聞こえるはずもないのに、声が聞こえた気がした。
棒の様なものを構えて、そいつをファマックに向けている。
カチャ、ッキン──。
「ズルはいけねぇな。負ける準備をした時点で──お前の負けだよ」
パァン!
ドサリ──。
(え?)
その音は、暗く濁るアレスの視界の中で、ファマックが頭を爆発させて屋根を転がり落ちてくるものだった。
※ ※
パァァァァァン────……。
ドサリ!
成り行き見守る観客の目の前に降ってくるのは、老魔法使いの死体──勇者パーティのファマックだ。
……何故か──頭がない。
「「「きゃぁぁああああ!!!」」」
その様子に鋭い悲鳴を上げて倒れるご婦人方。
冒険者達の顔も青ざめている。
「余計なことを……」
チッ、と舌打ちをして、その理由に思い至ったのはガルムのみ。
クルリと屋根の上を振り返ると、棒の様なものを持ったビリィが「ニヒヒヒ」と下品な顔で笑っていた。
「詰めが甘いぜオッサン」
シャキン! とレバーアクション。何かを排出すると、屋根の上で寛いでニヤニヤと笑いつつガルムを見下ろす。
「ひ!」
硬直する観客とガルム達。その中にあってようやく事態が飲み込めたのかメリーが声を上げる。
「ひぃぃぃぃぃぃぃ!!」
絹を裂くような悲鳴を上げて、アレスに縋りつくメリー、
「やだ、やだやだやだ! 死んじゃやだ!!!」
ドクドクと溢れる血だまりに手を突っ込むと、一心に魔法を唱え始める。
「聖なる癒し!!」
…………。
え?
「ほ、聖なる癒し」
…………シーーーン。
「な、なんで!?」
顔面蒼白にして「聖なる癒し! 聖なる癒し!」とうわ言の様に唱えているが、なぜか発動しない魔法。
メリーは気付いていなかったのだ……。アレスの指示でファマックが魔封の結界を張っていたことに。
策を巡らし……策に溺れる。知らぬは哀れな小娘ばかり──。
彼女は「そ、そんな! や、やだやだやだ! アレスが死んじゃう!!」と半狂乱の様になって騒いでいるが、人々の彼女らを見る目は非常に冷たい。
「ね、ねぇ! 誰か助けてよ! アレスを助けてよ!!」
なりふり構わぬ様子で観客に声をかけているが誰一人動かない。中には神官系の冒険者や魔法使いもいたが、氷のような視線でメリーを見ている。
唯一、ギルド側でアワワと顔を青ざめさせているのはギルドマスターくらいなもの。
ガクリと膝をついたギルドマスターは、頭を掻きむしっている。
彼なりに、何やら困ったことがあるようだが……。
どうも、あんなひどい目に遭わされたのに勇者の死を絶望的にとらえているようだ。
だが、そんなことはこの男には関係ない。そう、ガルムには関係ない……。
懐から紙に巻いた葉っぱを取り出し咥えると、マッチをブーツに擦り付け──点火。
シュボ──……チリチリ、と葉っぱに火をつける。
そして、さも旨そうにそれを徐に吸い込むと──。
スー……フゥー……。
紫煙を燻らせ──、
「故郷に帰んな……嬢ちゃん──ママのオッパイが待ってるぜ」
クルリと背を向けたガルムに対して、
「アレス、アレスぅぅぅぅぅ!!」
うわぁぁぁぁぁ、と、悲痛な泣き声が響いてきた。それは嗚咽へと変わり───
やがて、
「うううううう……許さない! 許さないぞ、おまえぇぇ!」
「ぎゃあああああ! コロシテヤルぅぅぅ!!」と、叫び続けるメリーを放置してガルムはギルドに戻る。
ギルド前にいた酒場の一家が深々と頭を上げてきたので、軽く頷くに留めてガルムはスイングドアを押し開けて中に入った。
外の決闘騒ぎのせいで閑散としたギルド。外の明かりに慣れた目にはひどく薄暗く感じられた。
「やれやれだぜ──」
キュイ、キュイ……、と揺れる扉に外の景色を切り取られつつ、
チラリと振り返ると、ギルドの受付嬢や職員達にボコボコに殴られているメリーが目についた。
その周囲には好色そうな目をした冒険者の男が群がっていたが、
「自業自得だな」
にべもなく言い捨てるガルム。
しかし、ふと寒気を感じて顔を上げると……、
「何が自業自得なのかしら?」
ピクピクと額に青筋を浮かべた見目麗しい女性──。
耳の長い…………銀髪、褐色肌のエルフが立っていた。
その手には掴まった猫よろしく、しっかりとビリィが拘束されていた。
「へへへ……お手柔らかにしてちょ」
「お、おう──早かったな」
二者様々な反応をする二人に対して、
ブルブルと震える手を隠しつつエルフは言う。
「──大人しく、留守番も出来ねーのかてめーらは!!!」
てめーーーらはぁぁぁ──────。
めぇぇらはぁぁぁ────。
はぁぁぁ────。
ぁ────。
※ ※
びゅううぅぅぅぅ…………
コロコロと草型モンスターの死体が風に揺られて転がる田舎町。
ここは無法と合法の入り交じる最果て────ウェストワールド。
砂礫と太陽
剣と──銃弾、
大魔法と──ダイナマイト、
勇者と──無法者、
魔王と──保安官、
異世界ファンタジーと西部劇のガンアクションが織り成す何か……。
異世界でおこる西部劇の一幕、
それはファンタジーと西部開拓時代の融合。
異世界ウェスタン───開幕っ!!
──────────────────
章末コメント(後書き)
今章最終話となります
これにて序章がおわりです
さて、
次はなぜ彼らお騒がせコンビが異世界に来ることになったのか……。
そこを語ります!
お楽しみに──!
※ ※
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