砂塵とともに──

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砂塵とともに──

 ビュゥゥウウウウウ……。  砂礫(されき)の吹きすさぶ荒野に一台の馬車があった。  それは不毛の大地と言ってもいいほど、この過酷な環境である地方では、逆に珍しい──特に目立った様子の無い普通の馬車。  荒れ地には不向きなこの馬車は、この地方に吹き荒れる特有の乾いた風に抗うように進んでいる。  それは、あちこち痛んだ構造材をさらに酷使し、ギシギシと不気味に(きし)ませながらも一心に街道を進んでいた。  それを操る行者(ぎょうしゃ)の人物はスッポリと頭からフードを被り、目元まで覆いつくしているため──年齢どころか、男女の区別さえつかない。 「アレス?」  そんな行者の背後からひょっこりと顔を出したのは、まだうら若き乙女。  世界中に拠点を置く正教会の神官帽を被った、いかにも僧侶然とした少女だった。  見目は麗しく一言で言えば美少女だ。 「メリーか、どうした?」  アレスと呼ばれた人物は振り返りもせず、マスクでくぐもった声で答える。  その声は風のため聞き取りづらいものの、酷く幼げに聞こえる。  もしかするとかなり年若いのかもしれない。 「もうすぐ着くんだよね?」 「あぁ、昼前には着く」  アレスの声に、パァっと顔をほころばせるメリーと呼ばれた少女。  その表情に、フード下のアレスの雰囲気もなんとなく明るくなったように見える。 「俺もさすがに疲れたよ……」 「うん、ゴメンね! あとでベルンに交代させるから」 「あぁ……頼む」  それだけ言うと、また馬車の中に引っ込むメリー。  パサリと前垂れを降ろして外界と馬車内を塞ぎつつも、そこには僅かながら汗交じりの少女の臭いが行者席に漂う。 「チッ……マジで疲れたぜ」  唾を吐き捨てるために下げたフードから素顔が(あらわ)になる。  苦々し()に口を歪めるアレスの顔は実に若い。  日焼けの少ない肌は瑞々しく、十代の少年のもの。それは、およそ過酷な環境で過ごしてきたとは思えないほど端正な顔立ちをしている。  その顔は「疲れた……」、と言う割には、どこか何かを楽しむような雰囲気があった。 「へへへ……湿気(しけ)た町だろうが、それでも実入(みい)りはありそうだな」  再びフードで覆った顔は隠れ、ニンマリ──と人知れず笑う彼の声は荒野の風にかき消されて誰にも届くことはなかった。
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