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プロローグ1「熱々で何が悪い!!」
「だぁりゃぁぁぁ!!!」
光司はすっかり手になじんだ棍棒を、小汚いゴブリンの頭頂部に叩き込む。
ゴブリンの野郎は、ゲプゥ! と紫色をした体液を口からふき出し、白目をむいてぶっ倒れた。
これで倒したと油断してはいけない。
ずる賢く、生き汚いゴブリンのこと。
───これはブラフだ。
小柄で、人間よりも背の低いゴブリンは、昔から人類の天敵にして人類のライバルだ。
そしてゴブリンにとっても、人間は天敵なのだ。
って、説明書に書いてありました。
それによると…
ゴブリンは対人間に特化した種族、そのため、弱点たる頭部は人間にとって叩きやすい位置にあるが故に、歪(いびつ)に進化した。
すなわち骨格の強化だ。
まるで鉄兜のように強化された頭蓋骨は、棍棒の一撃などでは砕けない。
とはいえ、その棍棒のような鈍器から伝わる衝撃はやはり強力で、一時的に無力化できる───ここですかさず追撃!
これを怠ると、むくりと起き上がって背後からブスリとやられるのだ。
実際、知り合いが何人もやられた。
しかも、このゴブリンは鎧をまとったソルジャータイプだ。
うつ伏せに倒れているため、他の急所が狙い辛い。
剣でもあれば隙間から倒せるのだが、あいにくと初期装備品ともいえる棍棒のみ。
まぁ、棍棒棍棒と言っているが、釘を多数打ち付けた…木製バットに見えるが気のせいだろう。───そうしよう。
伊達に、ナ〇キ製ではない!
「コージ兄ぃ。虫使う?」
不安げな表情で、光司に語り掛けるのは、まだ幼さの残る───赤いランドセルの似合う少女。
手に持つ緑色の、安っぽい造りの虫かごを掲げて見せる。
「いや、SPの無駄になるし、こいつらには効果が薄い」
緑の虫かごからキラキラとした召喚光が溢れていたが、光司の言葉聞いて──シオシオ~と消えていく。
「わかった…必要ならいつでも言ってね」
ショボ~ンと、しつつも──光司の言うことはきっちりと聞いてくれる。
「ユズ、ありがとな」とその頭を撫でてやる。
サラサラの黒髪と、ツインポニテがユラユラと揺れる。ユズと呼ばれた少女はくすぐったそうにしているが、その表情は嬉し気だ。
さて、と。
棍棒を片手だけで保持すると、左手を虚空に掲げる。
キラキラとした光が、その手に集約していく。
光司の持つ【能力】による召喚の前触れ、召喚光だ。
「オカズ、召喚! 竹輪のオデン!!」
キラン! シュパーっ、と…──左手に小皿に乗った竹輪のオデンが召喚される。
──アツアツだぜ!
「わぁぁぁぁ♪」
ユズがキラキラとした表情で、左手のオデンを憧れの目で見ている。
醤油とダシの匂いがたまらない…!
「ごめんなユズ…後で御馳走するから」
光司のセリフに再びショボ~ンとするユズ。
苦笑する光司、できればその頭を撫でてやりたいが、あいにく今は両手がふさがっている。
まずは、こいつを何とかしないとな。
すでに、意識が戻っているのだろう。
こちらの隙を窺っているのか、モゾモゾと動き──落ちたショートソードを探している。
そうはさせない。
「南無(なむ)さん!」
小皿のアツアツの竹輪を、ゴブリンの鎧の隙間に落とす。
アツアツのソレは、ダシを滴らせながらスルンと背中に潜り込んだ。
「ギョワァァァッァ!!」
ビック~ンと背中を仰け反らせると、無防備な姿勢でエビぞりになり硬直する。
「はい、アウトー!!!」
ゴッッキィィィィン!! と、その小汚い顔面に棍棒を叩きつける。
ゴフぉっと、血を吐き──乱杭歯を何本か散らせると、今度こそ息絶えたのか…ビクビクと体を痙攣させて動かなくなった。
念のため、さらに数発ぅ!! ───追撃とばかりに顔面を叩く。
叩く、
叩く、
叩く叩く叩く、
グッシャ、グッシャ…と水っぽい音が響き渡る。
食い込んだ釘が、体組織に絡まり引く抜くたびにブチブチと不快な音を立てた。
ねっとりとした体液が飛び散り、グロテスクなことこの上ない。
糸を引く紫色の目玉と、脳漿付きの体液…
ゴブリンのグチャグチャになった面影は見るも無残だ。
ユズは、オェっと顔を背けている。
「ふぅ…」
光司が額の汗を拭うころには、惨殺体が完成していた。
「…も、もういいでしょ?」
クイクイと服の裾をひっぱるユズに気付いて、その作業を止める。
「あぁ、これで大丈夫」
ニッっと笑って見せると、ユズが「ヒッ」と小さな悲鳴を上げて若干引いている。
まぁ無理もない…
俺だって別にサイコパス的な趣味があってこんなことをしているわけじゃない。
生きるためには仕方がないのだ。
この狂った世界で生きていくのは、油断も容赦もしてはならない…そう学んだ。
「あー…オデン、食べるか?」
左手に召喚光を纏わせると、ユズが首をフルフルと振って固辞する。
「い、いいです。…あとにしまぅ」
若干噛みながらも、青ざめた表情で言う。
ま、言いたいことは分かる。
ゴブリンの最後の食事? と同じものを食べる気には…まぁ、なれないだろうな。
俺もなんだかんだ言って、能力を使ったせいで───連続でのオデン召喚は辛い。
肩に、のしかかるような怠さがある。
「じゃぁ行くか」
ゴブリンの落とし物であるショートソードを拾って、背中のカゴに放り込むと歩き出す。
「う、うん…」
どこか不安げな表情で、ユズが光司の後に従う。
ユズはチラチラと後ろを振り返り、コブリンの死体を見ていた。
小さな口が「ゴメンネ…」と動いたのを、光司は気付いていたが何も言わないでおく。
油断も、
容赦も、
謝罪もしない。
俺は、そう誓った。
そうだ、あのクソ野郎…!!
クソ野郎ども…!!
クソクソクソクソクソどもがぁ!!
待ってろよ、エミ。
叔父さんが絶対助けてやるからな…!!
──────自分を慕っていた少女の面影を思い出しながら、深い森をかき分けていった。
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