第10話「卑猥な名を持つ神」

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第10話「卑猥な名を持つ神」

 ピンポンパンポ~~~ン♪ 《ア~、アロ~。もっし? 皆聞こえてますか?》  ん? 《テステス、マイクマイク。OK?》  館内放送?  って、  このアパートそんなのあったけ? と。エミが疑問に感じていると、光司もむくりと起き上がる。 「なんだ?」  いそいそ、とズボンを履きながら首をかしげている。 「スピーカーなんてあったっけ?」 「んにゃ? ねぇけど? 外じゃね?」  キョロキョロと周囲を確かめつつ、光司も疑問顔だ。 「外って、…町内放送? それこそないんじゃない?」  たしかに、この町内にそんな設備はない。  それに外から聞こえている感じではなかった・ 《へぃへ~い。聞いてる未開の地球の皆さん?》  あらま、確かにこの中で聞こえるな? 《え~っと、メモメモ、あ~チックショ、どっかいったわ。…めんどくせ、どうせ死ぬし、適当でいいや》  なにやら、スピーカー? のむこうでガサガサグチャグチャと物を漁る音が響いている。 《は~ぃ、地球の皆さ~~ん、私(わたくし)、時空神の §Γ@# と申します。》  光司達の困惑など知ったことかと言わんばかり。 《あ、多分地球の言語だと発音できないから、「ピー」とかでいいよ、なんか卑猥(ひわい)な感じのあれで》  はぁ? 「な、なに? なんなのこれ?」  困惑顔のエミ。  俺だってそうだ。 《じゃ、改めピー神です。というわけでね。説明端折(はしょ)るけど──この建物にいる人……とりあえず死にま~す♪》 「「「「「はぁぁぁ?」」」」」  アパートが揺れた。  どの部屋、どの階でも同じ現象が起こっているようだ。  安普請(やすぶしん)とはいえ、壁を通して建物全体の気持ちがシンクロしたようだ。 《おっほ! 思った通りの反応ありがとう~! んじゃ、手始めに───ハイ、ドォン!》  スピーカー? の奥でピー神とやらが、手を叩くと、空間がミシリと揺れ…本当に建物が揺れた。  そして、まだまだ、明るかったはずの外が…闇に閉ざされた。 《オッケー、隔離成功! この中、安全だよ~。バリアー的な、アレのおかげでガード中!》  おいおいおい、なにこれなにこれ?  え?  あれですか?  ドッキリ?  っていうか、今ドッキリってあったっけ?  昭和くらいで見なくなった気が…  エミとか知らないんだろうな~。  ん~…とりあえず、警察?  ───あ、武藤さんいるからいっか? 《じゃ、次々行ってみよ~!! ヒィァウィ、異世界へGo!!》  ガクンと体が揺れたと思った…  その瞬間、周囲が闇に閉ざされていることに気付く。  完全な闇ではない。薄暗いが黒いドーム状の何かに上空が覆われている……ん?  上空っていうか…  ドスンと光司はわずかに落下を感じる。  上を見上げれば、あり得ない光景。  家具、  人、  その他、  それらが宙に浮いて…  落下する。  一瞬ではあったが、見えた光景。  人と家具、  その配置…まるでアパートをスケルトンにしたかのような光景。  一瞬までアパートがあり、それが突然消え、人と家具だけが残されたような…  いや、その言葉は正確。  まさにその通り、アパートが消えた。  人と(・・)家具だけ(・・・・)が残された。 《あ、建物は基本持ち込み不可なんだよね。ごめ~ん…持ち物は特例でOKなんだよ~! ……嬉しい?》  う、  嬉しくねぇぇっぇ!!  アパートが消えたと同時に、2階、3階の住民と家具は重力に引かれて、1階へ落下。  僅かなタイムラグのあと、困惑する住民をそっちのけで動き出す空間の暴力。 「エミぃぃぃぃぃ!!!」  思わず、近くにいた姪を体で(かば)う。  エミは「ブヘっ」と蛙を潰したような声を出していたが、構っていられない。  このままでは、上の階の家具に押しつぶされる!  抱きしめ、勢いのままゴロゴロと転がっていく。  真っ暗な地面は土や、床のそれではない。  温度を感じない地面は硬質な感触こそあれ、どこまでもツルっとした表面だった。 「イタイイタイ!」  エミが抗議の声を上げるが無視!  (わず)かとは言え、移動できたことが幸いした。本来あったアパ―トの敷地から出たため、家具の落下から(まねが)れる。  その瞬間、ガラガラと落ちる家具と…人。  耳をつんざくような絶叫と破壊音。  特に3階の住民は悲惨だ。  目の前で、3階の老夫婦がぐしゃりと変形する様が見えた。  そのすぐ傍では、2階と3階の住民がごちゃ混ぜになって地面に落ちていく。2階の住民の誰かがは落下の衝撃と、3階の家具に挿まれ逃げることもできずにすり潰される。 「ユズちゃん!!」  腕の中のエミが叫ぶ。  しまった・・・!!  ユズはまだあの中に…!? 「そこに居ろ!」  誰かの力強い声に顔を起こす。  ユズ!  ユズはぁぁ!!  見れば、仕事帰りなのか迷彩服の守屋さん(兄)が、ユズを抱きかかえて落下の雨を躱しながら飛び出してきた。  守屋さん(弟)は、隣のクサレニートと、JK3人衆のうち一人をズルズルと引き摺りながら出てきた。  グッジョブ!! 「ぎゃぁぁぁぁ!!」  女の事は思えない悲鳴を上げながら残りのJK3人衆のうち2人が転がる様に飛び出す。その背後を庇っているのは頼もしき警察官の武藤さん。  あれ?  斉藤ママは?  俺のオパイは!! 「オッパァァァイ!!??」  光司は、その光景を見て、思わず飛び出す。  ヤバイ…  オパイ……じゃない。斉藤ママがいない!!  落下しつくした家具がバウンドしている。  3階のエターナルニートがカビた布団の上で放心していた。  大学生は、駐輪場で自転車に(またが)って呆然。  中学生の山田君は、ケツ丸出しで半分漏らした状態で冷蔵庫と箪笥の作る空間で辛うじて無事でいる。  他にも、2階、3階のゴミニートやOLなんかも無事のようだ。  だが、そこかしこで呻き声と、濃密な血の匂いも漂う。  飛び出したはいいがその光景に躊躇する。  斉藤ママは、この中で…まさか… 「こ、光司にぃ…」  ガクガクと震えるユズ。 「だ、大丈夫。大丈夫だから」  何が大丈夫なのか自分でもわからないが、ユズを抱き上げる。 「ま、ママは、多分…大丈夫だよ。今日、お家にいないから」  な、なんですと?  そういえば、ユズはずっとウチにいたな。  半ば託児所と化していた俺の部屋。  斉藤ママがいないときはウチで過ごしていたということか…  なら…安心?  本当か?  いや、大丈夫。  オパイは死なない。  オパイは正義。  オパイはいっぱい。  ふっふぅぅぅい!?    落ち着け俺…
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