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紫の空の下
猫がいなくなった。
あんなに可愛がってあげたのに、呆気なく逃げて行った。
多分、もう帰ってこない。
「タバコ27番一つとコロッケ一個でいいですか?」
カウンターの前に立った瞬間、店員さんはいつもの笑顔で私を見つめた。
手慣れた様子で、ホットショーケースからコロッケを一つトングで挟み、紙袋に入れ出す。
私の返事を聞く前にだ。まあ、いいけどね、どうせ買うつもりだったし。
私のことは『朝にコロッケとタバコを買う常連』として、夜シフトの彼に認識されているのだろう。
明け方のコンビニ、店内の客は私、店員は彼だけ。
そっと横目で見た店外、まだ薄暗くやっと今しがた少しだけ白けてきたようだ。
「今日は寒いですね」
「そう、ですね」
うん、寒い、本当に寒い。
昨夜から今朝にかけ、急激に季節は冬になってしまったのだろうか。
つい最近まで夏だったというのに、秋も一緒にこの寒さに追われていなくなってしまったみたい。
お店からの帰路にあるこのコンビニまでの10分の道のり、吐く息は真っ白。
木枯らしに追われるように、背中を丸めてマフラーに顔を埋めながらココに辿り着き、店内の暖かさにホッとした。
だって本当に寒かったんだもの、手なんかかじかんで真っ赤だもの。
それでもって、猫にも逃げられたせいで、心まで寒いったら……。
思い出したらポケットの中のスマホをギュッと握りしめていた。
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