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「どうしましたか? なにか、ボク失礼なことを言いましたか?」
少し褐色の肌をした手がカウンター越しに伸びてきて、私の頬を流れるものを堰き止めてくれる。
その体温の温かさに、一度流れ出したものは止まらなくなって。
「なんでも、ないです」
カウンターの下にしゃがみ込み膝に顔を埋めるようにして泣き出してしまった。
ああ、本当に迷惑な客だよね、ごめんなさい。
酔っぱらってるわけじゃないの、あ、うそ、少しだけまだ酔いはさめてない。きっと、そのせい。
猫がいなくなったからじゃない、違う、違う!
「オネエサン、あと30分だけ待っててくれませんか?」
声がすぐ近くで聞こえた気がして顔をあげた。
目の前にはカウンターから出てきた彼が、しゃがみ込んで私を覗き込み目を細めた。
「ボク、仕事終わったら送っていきます。まだ暗いですし、そんな顔してたら変な人に連れて行かれちゃいますよ」
グッと私の手を引き立ち上がらせてくれると、深夜は立ち入り禁止になっているイートインコーナーに案内してくれた。
電気を灯してくれて、温かい珈琲とポケットティッシュまで持ってきてくれる。
至れり尽くせりの優しさにまた新しい涙が出てきそうだ。
「あ、お金」
「ボクの奢りです、なんて嘘です。ちょうどさっきカフェマシンのクリンネスしたとこで、だからこれはテイスティングです。苦かったらゴメンナサイ」
「……ありがとう」
私の言葉に気を良くしたように笑顔で頷き、コンビニの駐車場に車が入って来るのを見て、持ち場に戻って行く。
ボンヤリとその背中を見送って珈琲をすする。
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