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絵本が好きだった小夜子は、よく空想に耽っていた。
魔法使いがカボチャの馬車を出したり、白兎が不思議の国へ連れて行ってくれたり、小夜子の世界はいつも夢であふれていた。
私はそんな彼女の夢物語が好きだったが、死んだら月へ還るという言葉は、私の胸をざわめかせた。
今にも月へ還ってしまう気がして、私は思わず小夜子の手を掴んだ。
小夜子は驚いたように私を見て、悪戯っぽく微笑んだ。
――大丈夫よ、まだ行かないから。でも……
小夜子はあの時、先に逝くことを予見していたのだろうか。
――もし私が先に死んだら、あなたのこと、月から見守るわ。だから、悲しまないでね。約束よ?
私は縁起でもない、と彼女を窘めた。
だが現実は、彼女の言った通りになった。
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