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調布駅のベンチに、一人分間を空けて座る僕らの間を突き破るように、ホームのアナウンスが流れました。
次の電車は特急です。それに乗って、府中駅まで乗れば、寂しい一人暮らしのアパートが待っております。
ただ──なんとなく、忙しなく帰りたくなくて、僕は彼女をちらりと見ました。
「僕、この次の次の各駅で行きますけど……」
彼女は頷きました。三度軽く頷いて、武器のようなヒールを鳴らして立ち上がりました。
「あたしは特急で帰ります。ご迷惑おかけしちゃって、それから変な話しちゃってすみませんでした」
「いえ、そんな」
僕は気の利いた言葉を探し、しかし見つからなくて、両手を小さく上げました。降参のポーズです。
「滅相もありません」
僕も女が羨ましいだとかぽつぽつ語ったのですから、お互い様ではあるのでしょう。
行きずりの、なんの接点もない二人。京王線だけが共通点の、捻くれた大人。
それだからこんな惨めったらしい話もできたのでしょう。
何を解決したわけではありませんが、なんとなく、みぞおちの辺り、いつもきりきりと痛むあ辺りが、暖かい感覚に満たされているような、息が少ししやすいような、そんな気がしておりました。
彼女もそうだといいなと、何にもなさない平凡な戦士のわたくしは思うわけでございます。
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