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ピピピッピピピッピピピッ、と、電子的な合図に淀んだ意識を持ち上げられて、僕は枕に突っ伏したまま目を覚ましました。
机の上には、片付けそびれた緑茶のボトルと缶ビール。部屋の中がどこかその、ほろ苦い香りが漂っている気が致します。
布団の中でもそりと身を回転させ、床に落ちたテレビのリモコンを引き寄せると小さな液晶テレビの電源を入れます。
「おはようございます。本日は十二月一日、水曜日です。本日の天気は晴れ……」
愛くるしい目をした女子アナがさらさらと語るのをぼんやり聞いて、僕は布団からのっそりと出ました。
洗面所に向かい、顔を洗います。肘に伝った水が冷たくぞわぞわとして、感覚が目覚めて参ります。
タオルを引っ張り出し、鏡を見ると、不健康そうな痩せた顔をした男が、上目遣いにこちらを見ておりました。
僕は肌がちりちりするほど強く顔を拭いて、洗濯機にタオルを放り投げます。惜しい。外しました。しゃがんで拾い、洗濯機に入れ直します。
立ち上がり、ふと見上げた先には、カーテンレールに掛けたスーツ。新卒の時から変えていない、冴えないスーツ。僕の相棒というにはこそばゆい、ただの共闘仲間でございます。
「……おはよう」
苦笑して、何とはなしに共闘仲間に声をかけ、スウェットを脱ぎ捨てました。シャツに袖を通し、袖や腹のボタンを留め、ネクタイを結びます。スラックス、ベルト、スーツを着て、どっと笑い出したテレビを消しました。
飲み残しの冷めた緑茶を胃に流し込み、部屋の電気を消します。
変身完了。
何の変哲もないしがない戦士は、今日も戦場に参ります。
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