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ことのあらましを説明致しましょうか。
まず、ピンヒールの女性は痴漢をされていた。痴漢を追っ払おうと、背後に立つリーマンの靴をぐりぐりとわざと踏みつけていた。
しかし痴漢リーマン、澄ましていやがって一向にやめない!
そこで女性は声を上げたのです。
この人、痴漢です!
と。この、僕のスーツを引っ掴んで。
僕の説明と、僕を捕まえて駅事務所へ連れて行った数人の方々の証言により、僕の冤罪は何とか証明されたわけですが、へとへとで帰りつこうとしたリーマン捕まえてこの仕打ちですよ。
もうね、だから第二戦場だと申し上げましたでしょう。
ラッシュの電車はあらゆる意味において、戦場なのです。はい。
「すみませんでした……」
女性は悔しそうにうつむいて僕に謝る。痴漢をとっ捕まえだと思ったら別人だったのですから、そりゃあさぞ悔しいでしょう。立つはずの腹もしおしおとおさまってしまいます。
「いえ、その、大丈夫……じゃないですよね。あ、何か飲み物買いましょうか。少し休んで行かれた方がいいかと」
僕は駅のホームのベンチに座る彼女から離れ、自販機に駆け寄ります。あったか〜いと表示された緑茶を買って、がこんと落ちてきたそれを拾い上げて彼女に差し出しました。
女性はうつむいたまま受け取り、キャップを捻りかけ、やめて膝の上に下ろしました。
「あたしのこと、勘違い女と思うでしょう」
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