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「だから、敵だと思ってるのかな。ピリピリして、馬鹿みたい」
「自分より良いもの持ってる人って、狡いですよね」
黙っていた僕が口を開くと、女性は驚いた様子でこちらを見上げ、爪の先を軽くいじくって、頷きました。
「良いなあって思うの。でも、頑張っても手に入らないの。あたしは女。敵は男。言葉があれだけど、おちんちんだって願って生えてくるもんじゃないでしょう。そうしたら、世の中男ばっかりになっちゃうでしょう」
「そうでしょうか」
僕は彼女から少し間を空けてベンチに腰掛け、背を丸めました。刺し殺すような鋭いヒールに踏まれた靴が、変な場所に皺が入っておりました。それを眺めながら、僕はぼそぼそと低く続けます。
「僕──僕の勝手なエゴですけどね、女の人が羨ましい時もあるんですよ。場所によるかもしれないけど、ある程度愛嬌で許される気がして。しくっても、仕方ないなあ〜で許してもらえる女の人、会社にひとりはいるじゃないですか。こっちは土下座せんばかりに頭下げてんのに、ああ、女性の特権だなあって、勝手に思ったりしました」
「それはごく一部のアイドル社員だけですよ」
ちょっと嘲るように笑って、彼女は自らの華奢な手のひらを開いて、閉じました。
「そうか──男の人でもそうか」
「そんなもんです。人間とか、生まれとか」
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