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その後も、エリとの関係は良好に続いた。彼女は異性同性関係なく、歳の近い人が苦手だったという。眩しすぎるといっていた。でも、僕はその例外になれたようだった。
「あなたは、少し大人っぽいですし、一緒にいても落ち着くから」
その言葉は誉れでもあったが、僕からしたら彼女が幼すぎるだけのように思えた。彼女の両脚は、生まれつきのものではなく、高校卒業後に事故に会い、その後遺症だという。大学は一年もたたずに卒業し、特に働くこともなく今まで過ごしてきたという。
「最初は入院していたし、そのあとはリハビリとかもあったし、それに急に歩けなくなって病んでいたんだ。でも、そろそろ何とかしないとなぁって思っているんだけど、どうしているかわからなくて」
まぁ、そういうことで彼女は、4年ほど空白の期間があり、そのせいか子供っぽさが捨てきれていなかった。
僕はちょうど入社したてで社会に揉まれている最中だったから、彼女にとっては少しだけ大人っぽく見えたのかもしれない。
僕としても、今の仕事が自分に合っていないような気がしていて、そんな中でのエリとの出会いだったから、助けられている部分もあった。
エリは、結構外出には積極的だった。僕が休みの日には一緒に買い物に行ったし、僕が自車持ちだったこともあり遠くに行きたいということが多かった。
繰り返すが、本当に良好な関係であった。踏み込めば付き合うこともできたかもしれない。でも、彼女には遠慮があったし、僕も自信が持てなかった。
彼女が好きだった。付き合ったら少しは心情的なモヤモヤが晴れるだろうということは分かっていた。でも、僕は彼女の障害的な部分を見て見ぬふりをしていた。
それがかえって彼女の好印象につながったのだろうが、自分は介護的な知識や、車椅子目線の不便などの勉強をしなかった。
彼女に会うたびに、これ以上一歩先の関係になるには理解が必要だと思うのだが、なぜかその一歩が踏み切れなかった。
いや、『なぜか』じゃないんだ。僕は分かっていた。
エリと過ごす中で、僕は彼女に対して謎の潔癖症を患っていることを理解していた。少し子供っぽくて、現実をイマイチわかっていない彼女に現実を見せてはいけない。決して彼女を汚してはいけないし、そういった妄想をしてしまう僕は汚い存在だ。
彼女を理解しようと努力することは、彼女を自分のものにしたい、汚してしまいたいという欲望がガソリンとなっているんじゃないか?
お前は偽善者なのではないか? とっても惨めな虫ケラなんじゃないか。今の関係を続けることが一番純潔なんじゃないか?
怖くて仕方がなかった。この関係が壊れることが。でも、無情にも時間は過ぎ去り、環境には変化も訪れる。
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