汚れた潔癖虫

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 エリは仕事を始めた。小さな工場の事務の仕事だった。どうやら、障碍者を雇うと設備をバリアフリー化するために国から補助金が来るし、『私たちは差別なく従業員を採用します』というクリーンなイメージをつけることができるといった理由で、意外と求人は多かったという。 「あなたが、働いている間ずっと暇だったから。それに、ずっとこのままじゃダメって思うって前に言ったでしょ?」  そしてもう一つ、変化が起きた。  彼女のもとには週に一回ヘルパーがやってくる。大きな買い物だったり、外に散歩に行ったり、彼女ができない家事回りだったり。  そのヘルパーさんが変わって、新しく男がやってきたのだ。名前は中西さん。下の名前は知らない。  エリと会う約束をしていたある日、待ち合わせの場所に行くと彼女と彼女の車椅子のハンドルを握る彼がいた。  体躯はがっしりとしていて髪は短く刈り上げていた。爽やかな笑顔に、はきはきとした声。真面目な体育系って印象だった。そして、その印象の通りの人だった。 「エリさんから、あなたの話をよく聞くんですよ。だから一度会ってみたくて」  そうして、なぜか公園のベンチに男二人で座って、エリは一人で車椅子を押してどっかへと向かった。  中西さんの話はこうだった。  半年前に、大きなミスで居場所がなくなり営業の職を辞めた。もっと人のためになる仕事がしたくてヘルパーに。  でも前の職のトラウマで、ミスが怖くて満足に仕事ができない。そのため、エリについて色々知っておきたいとのことだった。  担当はエリだけでなく一週間のうちに様々な人の家に向かい、介護をするらしいが、やはり歳の若い女性であるエリには細心の注意をしているという。その分、消耗が激しく、どうにかしたいのだと。  勝手な妄想だが、僕に対して「私はただのヘルパーです」と先手を打ってアピールする狙いもあったんじゃないかと思う。  でも、それがかえって悪かった。  僕はその場では真摯な彼を受け入れて色々話したし、話が盛り上がることもあった。表面的には、僕とエリとの関係に中西さんが割り込んでくるということは無かった。  でも、だんだんと。だんだんと夜だけだった不安に、僕の日常は飲み込まれていったのだ。
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