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彼女は職を見つけ社会を知っていく。
僕以外の若い男性と関係を手にしていく。
僕がだんだんと特別から離れていく気がした。
彼女への潔癖が日に日に増していき、いつかそう遠くない未来、自分が彼女の枷になるのが目に見えていて怖かった。
それなのにこの関係が崩れるのも怖くて。毎日一回は電話を掛けた。
「今どこにいるの? なにしてた?」
休みの日は積極に彼女に会いに行った。
中西さんと話しをたり、メッセージのやり取りすることもあったが、決まってそのあとにイライラが抑えられなくなった。
妄想はだんだんと悪い方向に向かった。
中西さんはいつかあの筋肉質な剛腕を振るって彼女を襲うのではないか? その機会を探るためにいろんな情報を手に入れようとしているのではないか?
あの清純そうな顔や言葉には裏があるはずだ。
エリは大丈夫だろうか? 職場でセクハラとかされていないだろうか? 中西に言い寄られたりしてないだろうか?
電話の回数は増えていった。朝起きた時、会社の昼休憩。夜彼女が寝る前の時間。
それと同時に、どんどん惨めになっていく自分がいた。どうして、こんな化け物になってしまったんだろうか? 明日こそは、彼女への電話は抑えよう。束縛してはだめだ。
だってよく考えてみろ。まだ付き合ってもいないんだぞ。
戻ろう。まだ、戻れるはずだ。
彼女に対する潔癖を抑えよう。誰だって成長していくんだ。時間がすべて奪っていくんだ。仕方ないことなんだ。それは、ちゃんと適応していかなくちゃ。
それでも、自我を抑えきれない日々。いつ彼女に嫌われてもおかしくないし、もう嫌われているかもしれない。
職場で頼れる人がいて、その人に「友人が変に束縛してくるんです。最近どんどんエスカーレートしていて」なんて相談しているかもしれない。
もしかしたら、その相手は中西なのかも。
あぁ、許せない。醜い内面を隠して清純気取ってあいつは「わかりました、私がなんとかします」なんて言うに違いない。
そうして、僕を排除した後。彼女を襲って、抵抗もできない体を担いで押し倒して。汚して、汚して……。
「違う。違う、違うだろ!」
何を考えているんだ。獣は僕じゃないか。どれだけ腐ったら気が済むんだ。どこまで自分を下げれば気が済むんだ。
惨めでみじめで仕方がないんだ。いっそもう、どこか遠くへ行ってしまいたい。
――それかせめて、人間ではない何かになってしまいたい。
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