36人が本棚に入れています
本棚に追加
第二十六話「四天王 美少女宇宙人(3)」
月光が、氷柱で胴体を貫かれたリンジーを照らす中――
「リンジー! 『脱がし魔法』! 『脱がし魔法』!」
ライが、急いで脱がし魔法を発動し、リンジーに突き刺さっている氷柱を消した。
「リンジー!」
心配するライに対して、リンジーは、
「大……丈夫……」
と絞り出すように声を発すると、
「……『治癒』……!」
と、腹部の傷に手を当てて、呟いた。
手が発光すると同時に、身体が淡い光に包まれ、みるみるうちに、傷口が塞がって行く。
傷が完全に治ったリンジー見て、
(回復魔法か。良かった!)
と、ライは、胸を撫で下ろす。
ライはケイシーの方を向くと、睨み付けた。
「ケイシー!」
そして、
「お前の鎧を絶対に脱がして、ぶっ飛ばしてやる!」
と、怒号を放った。
リンジーは、ケイシーを見詰めて、
「これが答えなのですね……ケイシー様……。……残念です……」
と呟くと、寝間着から炎の鎧へと、再び姿を変えた。
ケイシーは、そんな二人を見て、
「漸くやる気になったのだ? でも、もしかして、お前たち。二人で戦えば、ケイシーに勝てるとでも、思っているのだ?」
と言うと、不敵な笑みを浮かべて、
「実力の差を教えてやるのだ! 『氷獄』!」
と、二人に向かって、両手を翳した。
すると――
「「!」」
夥しい数の氷柱が出現し、ライとリンジーを円形に取り囲んで行く。
遠目に見ると、それはまるで、突如、空中に巨大な球体が現れたかのように見えた。
(これだけの数……マジか……!?)
余りの多さに、圧倒されるライ。
ケイシーは、
「どれだけ持つか楽しみなのだ。せいぜい足掻くと良いのだ」
と言うと、パチン、と指を鳴らした。
その直後、ライの正面にある氷柱の内、一本がライに向かって猛スピードで飛んで来た。
「くっ! 『脱がし魔法』! 『脱がし魔法』!」
脱がし魔法で、氷柱の魔力を脱がして、消滅させる。
――が。
「!」
即座に、背後にある別の氷柱が、ライに襲い掛かって来た。
「『脱がし魔法』! 『脱がし魔法』!」
振り向いて、脱がし魔法で迎撃するライ。
その後も、上から、下から、右から、そして左からと、連続で氷柱が飛んで来る。
その度に、二連続の脱がし魔法で氷柱を消して行くライだったが――
(間に合わない!)
左から飛んで来る氷柱に対して、二回目の脱がし魔法が間に合わない事を察して――
(それなら!)
「『脱がし魔法』!」
一回だけ脱がし魔法を発動し、〝自分の身体〟の〝柔軟性〟の〝限界〟を脱がし、身体を大きく反らして、回避する。
だが、何とか避けたものの、次から次へと氷柱の攻撃は続く。
(このままだと、いつか捕まる……! どうしたら……!?)
焦るライだったが、ふと、リンジーの姿が目に入った。
リンジーも同じく、立て続けに氷柱の攻撃に晒されていたが、先程と違い、
「『炎』!」
と、一回の炎魔法で、一本の氷柱を相殺していた。
(何でだ……?)
と考えたライは、
(そうか!)
と、リンジーが行っている事に思い当たった。
そして、
「『脱がし魔法』!」
と、右から迫りつつあった氷柱を、一回の脱がし魔法で迎撃することに成功した。
(よし!)
リンジーが行っていたのは、見た目と違ってかなりの魔力が込められている氷柱に対して、こちらも、相応の魔力を込めた魔法で対応する、という事だった。
当然、消費魔力は大きくなり、一回ごとにしんどい思いをする事にはなるが、これで、ライも、かなり対処し易くなった。
そのまま、暫く同じような状況が続いた後。
ライは、氷柱を迎撃しながら、考えていた。
(もしも、これだけ大量の氷柱で、同時に攻撃されたら、俺たちは一巻の終わりだ。そうしないのは、アイツが、相変わらず俺たちを舐めていて、遊んでいるからだ。本当は、まだ本気じゃない、今の内に術者であるケイシーを叩きたいところだが……)
そう思うも、ライとリンジーはどちらも、襲い来る氷柱の対処で手一杯で、そんな余裕はなかった。
そんな中、尚も、ライは、どうにかして事態を打開出来ないかと、思考する。
(リンジーは、太平洋に撃って広範囲の海水を蒸発させたという巨大な炎を、使えないだろうか?)
しかし、ライは、直ぐにその考えを否定した。
(いや、駄目だ。あんな大規模魔法を撃ったら、日本全体が焼けてしまう。それに、そもそも、見た目以上に魔力の消費を強いられる氷柱の迎撃のせいで、既に魔力を消耗してしまって、十分な魔力が残っていないかもしれない。あと、俺と戦った時は、女王による自爆魔法の術式により魔力が膨張していたためにあれだけの魔法が使えたが、今は状況が違う、という事かもしれないしな)
ライがそんな事を考えていると――
「そろそろ、スピードアップするのだ」
と、ケイシーが、再び指を鳴らした。
すると――
「くっ!」
迫り来る氷柱をまだ消し終わらない内に、次の氷柱が動き出して、襲い掛かって来る。
連続する氷柱と氷柱の間隔が短くなって行き、ライは、全てを迎撃し切る事が出来ず、先程脱がし魔法で限界を脱がした柔軟性を使って躱そうとするも躱し切る事が出来ず、氷柱が身体を掠めて行く。
「ぐぁっ!」
ライの腕、脚、腹部に、少しずつ傷が出来て行く。
一方、リンジーも、同様の状況にあった。
氷柱を相殺し切る事が出来ず、飛行魔法で回避しようとするが、回避し切れず、身体中に傷を負って行く。
更に、リンジーには、もう一つの懸念があった。
それは、魔力の残量だった。
ライが先程考えていたように、以前と違って女王の自爆魔法術式が無い事と、既に氷柱の迎撃でかなり魔力を消耗してしまった事から、リンジーは、
このまま氷柱の攻撃が続けば、魔力が尽きてしまう……どうすれば……?
と、焦っていた。
その間にも、氷柱による攻撃の間隔は更に短くなって行き――
「くっ!」
――際疾い攻撃が続き、少しずつ身体の肉が削られて、出血して行く。
ライも、事態が悪化の一途を辿る中、焦っていた。
(どうしたら……!?)
すると――
「「!?」」
突然、氷柱の攻撃が止んだ。
怪訝な顔をするライとリンジーに対して、俯いていたケイシーは、顔を上げ――
「お待ちかねなのだ」
と、満面の笑みを浮かべた後――
「氷柱、全部で、同時に攻撃してやるのだ!」
「「!」」
と、低い声で宣言すると、手を上に掲げ、顔を歪ませて笑った。
ライは、
(ヤバい! もう、アレを使うしかない! もし氷柱を全部消せても、その後、まだケイシーに余力があったら終わりだから、本当は、もっと後で使いたかったが……。でも、今使わないと、確実に殺される!)
と、意を決して、リンジーに合図を送ろうとした。
「リン――!」
――が、その直後――
「「!?」」
「!?」
――街中に、突如、炎が複数出現した。
名古屋市中のあちこちに現れたその炎に、
「一体、何なのだ!?」
と、ケイシーが戸惑う。
リンジーは、感知魔法を使い、ライは、脱がし魔法で〝五感〟の〝限界〟を脱がして、それぞれ、広範囲を探って行くと――
「……これは!」
感知したリンジーが、思わず声を上げる。
愛知県全域――に止まらず、日本全国の至る所で、炎が出現していた。
最初のコメントを投稿しよう!