第二十三話「新生活(後)」

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第二十三話「新生活(後)」

 その後、紗優が昼食を作り終わり、食事にした。    昼食の後、ライは、 「そうだ、これ、使ってくれ」  と、上丸渕から貰った、十万円が入っている封筒を、そのまま紗優に渡した。  中身を確認した紗優は、驚き、 「これ……! 良いの?」  と聞いた。  ライは、頷いた。 「ああ。既に食費が掛かっているし、日用品まで買って貰って、これからも食材を買うのに必要だろうし」  すると、紗優は、 「わぁ! ありがとう! お金足りなくなりそうで、どうしようって思ってたんだ! 助かる!」  と、明るい声を上げた。  ライは、 「足りなくなったら、また言ってくれ。上丸渕が作ってくれた俺の銀行口座に、まだあるから」  と言うと、紗優は、 「ありがとう!」  と、微笑んだ。    その後。  三人で、家の中を見て回って、部屋の割り振りを決めた。  ちなみに、この家――ライの実家は、二階建てで、入って直ぐ左手に、客間がある。  その右奥に夫婦の寝室があり、その隣――玄関から見て真正面は、トイレだ。  トイレの右隣には、風呂、そして洗面所があり、その隣はダイニングキッチンだ。  トイレから出て直ぐ左には、二階へ上がる階段がある。  階段を上がると、正面に部屋があり、その右に、更にもう二つ部屋がある。  使用する部屋は、ライが客間、紗優が二階の中央の部屋、そしてリンジーが二階の右奥――紗優の隣の部屋、となった。  紗優は、「ライ君も二階の部屋にすれば良いのに」、と言ったが、ただでさえ美少女二人と同じ屋根の下で暮らすのだ。隣の部屋だと、色々と意識し過ぎてしまうだろうことは容易に想像出来たため、丁重に断った。  尚、紗優は、間に空き部屋を挟んで、というのは寂しいから、と、リンジーと隣同士の部屋にしたらしい。  部屋の割り振りを決めた後は、荷解きをする時間とした。  と言っても、荷物があるのは紗優だけなので、実質、行っているのは紗優だけだ。  その間、ライは、リビングでリンジーと雑談をしていた。  ライは、ジーンズに長袖のTシャツという、昨日と同じ格好のリンジーに、 「今更だけど、どうして、日本語を喋れるんだ?」  と聞いた。  リンジーは、 「本当に今更だな」  と言いながらも、教えてくれた。 「僕たちは、思念で会話するからだ。だから、相手がどんな言語を使っていても、関係ない」 「へぇ、便利だな」 (だから、か)  と、ライは、納得した。  それならば、ライがリンジーと戦う直前、遠く距離が離れているのに、まるで近くで話しているかのようにリンジーの声が普通に届いた現象の説明がつく。  それに、宇宙空間にいるであろう女王の声が聞こえた事に関しても、ただの声ではなく、思念ならば、届いても不思議ではない。  折角の機会だからと、ライは、続けざまに質問した。 「何で、N市を……N市に来たんだ?」  「何でN市を襲ったんだ?」と言い掛けて、慌ててライは、言い直した。  すると、リンジーは、 「僕たちの調査力を舐めるなよ?」  と言うと、胸を張って言った。 「ここには、ど真ん中祭りがあるからだ!」  得意顔のリンジーに対して、 「いや、あるけど……だから?」  と、聞き返すライ。 「惚けても無駄だ! ここが、地球の中心だという事は、分かっている!」 「………………」 (ポンコツだったか……)  宇宙中を、星から星へと旅出来るような、地球人より遥かに優れた科学技術を持ち、強力な魔法を使う癖に、どうやら、妙な所で抜けているようだ。 (〝日本の中心〟を謳って名付けられた〝ど真ん中祭り〟だが、〝日本の中心〟を謳っている自治体なんて、他に幾らでもあるし、百歩譲ってここが本当にど真ん中だとしても、そもそも、〝日本〟だから! 世界じゃないから!)  と、内心で突っ込みつつ、 (でもまぁ、遥か宇宙の果てから旅して来たこの子たちに、辺境の星の事情を詳しく理解しろなんて言っても、無理な話か)  と思い、ライは、リンジーの発言に対して、特に訂正はしなかった。  そして、何となく、ライは、テーブルの上にあったリモコンを手に、テレビの電源をつけた。  すると、ニュースが映し出された。  それによると、美少女宇宙人の宇宙船は、未だに宇宙空間――地球の軌道上にあるものの、今の所、特に動きはない、とのことだった。  国連で連日連夜話し合いが行われているが、結論は出ていないらしい。  というのも、先制攻撃すべきだ、という国々と、いや、向こうの方が科学技術も軍事力も上だ、むやみに刺激すべきではない、という国々が、真っ向から対立しており、膠着状態に陥っているからだ。 (四年経っても、国連は変わらないな……)  転生前も何度も見た、機能不全に陥っている国連の様子に溜め息をついて、ライはチャンネルを変えた。  が、どのチャンネルも、美少女宇宙人に関することばかりで、 (そりゃ地球の危機だもんな……)  と思いながらチャンネルを変え続けていると、一つだけ、美少女宇宙人とは関係ない内容を放送しているチャンネルがあった。 (ドラマか。転生前も、まず見る事は無かったな)  そんな事を考えながら、ライが目を向けると、画面の中で、若い男が、若い女と話していた。  すると、次の瞬間―― 「!」  ――その男が、突然女にキスした。驚いた表情を浮かべる女。 (はっ!)  バッと、ライがリンジーの方を振り向くと、リンジーは、テレビ画面を凝視していた。  慌てて、テレビの電源を消すライ。 「………………」  沈黙が流れる中、ライは、咳払いをすると、 「えっと、あの……その……」  と、気まずい空気を紛らわせようとして、頭を回転させた。  そして、先程のニュースを思い出したライは、 「なぁ、リンジー。あの宇宙船の中には、お前の仲間たちがいるんだよな?」  と、リンジーに聞いた。  リンジーは、頷いて答えた。 「ああ、四天王の方々がいる」 「四天王! 幹部か……」 「そうだ。当然だが、皆、僕よりも強い」  ライは、 (リンジーよりも更に強い敵かよ……!)  と、想像するだけで、気が滅入った。  続けて、ライは、 「じゃあ、宇宙船の中には、あと、四天王の部下たちがいるんだよな、きっと?」  と聞いた。  その質問に対して、リンジーは、首を振った。 「いや、宇宙船の中に残っているのは、四天王の方々だけだ」 「!」  その答えに、ライは目を剥いた。  それは、他の者たちは全員、星々を破壊するために、自爆して既に死んでいる事を示唆していたからだ。 「………………」 (その子たちは、どんな気持ちで、自爆したんだろうか?)  遣る瀬無い表情を浮かべているライに対して、リンジーは淡々と、説明を続けた。 「四天王の方々は、それぞれ、得意とする魔法属性が違う。末席から順に、ダイアナ様は、土魔法。カレン様は、水魔法。アマンダ様は、植物魔法。そして、リーダーであり、四天王最強であるケイシー様は、氷属性だ」  リンジーの言葉を聞いて、ライは、思考していた。 (四天王……リンジーよりも強い敵……。正直、俺一人で戦うのはキツい。もし、リンジーが一緒に戦ってくれたら、心強いが……でも……)  ライは、リンジーを見ると、 「あのさ」  と言って、一瞬躊躇った後、意を決して聞いた。 「もしも……四天王が地球を攻めて来たら、リンジーは、仲間と戦うのは……やっぱり、嫌だよな?」  その問いに、リンジーは、 「そうだな」  と言うと、顔を上げた。  そして、建物の遥か上――宇宙空間にある宇宙船の中にいる仲間たちの事を思って、言葉を紡いだ。 「四天王の方々は、僕に、魔法の何たるかを教えてくれた。僕に、戦闘訓練をしてくれた。とても厳しかった。でも、訓練が終わると、いつも皆、僕を本当の妹のように可愛がってくれた。僕も、四人の事を姉のように慕っていた」  その言葉に、ライは、俯いた。 (リンジーにとって、彼女たちは、ただの仲間じゃない……。家族なんだ) (そんな相手に対して、一緒に戦ってくれだなんて、とてもじゃないが、頼めない……)  すると、リンジーは、ライを見て言った。 「だが、もし戦闘が回避出来ないなら、僕は戦う」 「!」  驚いて顔を上げるライ。 「無論、まずは、戦闘を避けるために、説得する。だが、説得に応じて貰えなかった場合は、戦って止めるしかない」  そう言うリンジーに向かって、ライは、 「……本当に……良いのか……?」  と、聞いた。  その問いに、リンジーは穏やかな、しかし決意を込めた表情で答えた。 「この星には、紗優がいる。死なせたくない」  その言葉に、ライは、 (そんなに大切に思っているんだな……紗優の事を……)  と思った。  そんなライを見詰めた後、リンジーは、目を逸らして、 「ついでに、君もいるしな」  と言うと、頬を朱に染めた。  ライは、少し驚いた後、 「ついででも嬉しいよ。ありがとう」  と言って、顔を綻ばした。  リンジーは、ライを一瞥した後、頬を紅潮させたまま、顔を背けた。  暫くして。  何気無く、ライはリンジーに聞いた。 「そういや、リンジーって、色んな魔法使えるよな! 炎魔法に、飛行魔法、回復魔法、更に透明化の魔法まで使えるし、凄いよな!」  しかし、リンジーは、 「僕から言わせたら、君の魔法の方が、余程応用範囲が広くて凄いと思うぞ」  と言った。  意外な言葉に、ライは首を捻る。 「そうか?」 「そうだ。君の、魔法……何という魔法だったか……」 「脱がし魔法(イレイズ)だ」 「そう、それだ。間近で使うのを何度も見たが、魔法属性を完全に無視して、横断的に様々な事に使える。無限の可能性を秘めていると言って良い」 「無限の可能性、か……」  ライは、三年間の修行で、脱がし魔法の様々な応用方法を考え尽くしたつもりだった。  が、言われてみれば、まだ、〝極めた〟という状態には程遠いように思えた。 (俺にも、まだ、大きな可能性があるんだ!)  強敵との戦いを前に、一筋の光明を見出した気がして、ライは、 「何か、希望が見えて来た! ありがとう!」  と礼を言った。  リンジーは、 「それは良かった」  と、頷いた。  そして、ライは、 (脱がし魔法の可能性を模索するなら、他の魔法の事も色々知っておいた方が良いよな!)  と、早速、リンジーに質問した。 「じゃあさ、参考までに聞きたいんだけど、リンジーが使える魔法って、他にもあるのか?」  すると、リンジーは、 「あるぞ。この魔法は……」  と、教えてくれた。  その魔法の内容を聞いたライは―― 「凄いな、それ!」  と、思わず叫んでいた。 「もし、四天王と戦わざるを得なくなったら、それ、使ってくれるか?」  そう訊ねるライに対して、リンジーは、 「その場合は、止むを得まい」  と言った。 「ありがとう! その時は、合図するから、頼む!」 「了解した」  二人が、そんなやり取りをしていると、 「やっと終わったぁ!」  と、荷解きを終えた紗優が、上の階から下りて来た。  その後、紗優を含めて三人で、家の中の仕事の分担を決めた。  どうやら紗優は、当初は、自分一人で家事を全てやるつもりだったようだ。  が、ライが、 「それじゃあ、余りにも申し訳なさすぎる。俺たちもやるよ。料理以外なら、出来ると思うし」  と言って、分担を提案したのだ。  少し考えていた紗優だったが、 「ありがとう。じゃあ、お言葉に甘えて」  と言って、微笑を浮かべた。  そして、 「じゃあ、リンジーちゃんも、手伝ってくれる?」  と、リンジーの方を向いた。  リンジーは、 「良いぞ。スイーツをくれるならな」  と、頷いた。
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