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第二十四話「四天王 美少女宇宙人(1)」
家事の分担が決まった頃には、午後六時を過ぎていた。
「じゃあ、夕ご飯の支度するね!」
と言うと、紗優はキッチンへと向かった。
その後、夕食が出来て、三人で食卓を囲んだ。
ちなみに、ライは晩御飯の最中に、紗優に、気になっていた事を二つ聞いた。
一つは学校の事だ。
上丸渕から貰った腕時計によると、今日は月曜日だ。
よって、学校があるはずではないか、という心配だった。
すると、紗優は、「学校は暫く休みだよ」と答えた。
どうやら、地球の破壊――つまり、人類が滅亡する危機に瀕していたため、そんな状態で登校させられない、という事らしい。
もう一つは、紗優の親の事だった。
「親御さんは、心配してないのか? その……俺たちと暮らすことを」
という、ライの当然の疑問に対して、紗優は、
「うん。ここで暮らすって伝えたけど、分かってくれたよ」
と、微笑んだ。
その答えに、唖然とするライ。
(おいおいおい、マジか!? 大事な娘が、〝地球を滅ぼそうとした奴〟と、〝世紀の大性犯罪者〟と一緒に暮らそうってんだぞ!? しかも、後者は、三年前に娘を裸に引ん剝いた張本人だぞ!? 大丈夫か、その両親!?)
普通なら、怒鳴り込んで来ても良いくらいの事案だ。
しかし、
(いやまぁ、色々文句言われても、確かにそれはそれで困るしな……)
と、思い直した。
食事後、三人は順番に風呂に入った。
そして、
「お休みなさい」
「お休み」
「お休み」
と、就寝することにした。
客間に布団を敷いたライは、
「おっと、その前に」
と、腕時計を操作して、上丸渕にメッセージを送った。
リンジーの味噌外郎の件だ。
〝他の種類の外郎は要らないので、代わりに、味噌外郎を大量に用意して欲しい〟、という旨のメッセージを送ると、
「これで良し」
と、布団に入った。
そして、夕べと同様、〝五感〟の〝限界〟を脱がし魔法で脱がして、異変があれば直ぐに起きて対処出来るようにしたまま、目を閉じた。感覚が一気に鋭くなると同時に、感知出来る範囲が広がって行く。外では、相変わらず、特殊部隊が二人、見張っているようだ。
ちなみに、今夜は、夕べとは少し状況が違った。
(よし、良い感じだ! これなら、眠れる!)
美少女二人と一つ屋根の下で寝ているという状況と、美少女たちの寝息や甘い香りを感じ取ってしまうという点は同じだが、二階と一階という、物理的な距離を少し離したことで、昨夜と違って、美少女たちの息遣いなどの〝生々しさ〟が軽減されていた。そのため、これならば、今夜はそれほど苦労せずとも、眠る事が出来そうだった。
眠りに就いて、暫く経った後。
「!」
異変を感じたライは、飛び起きた。
何かしら互いに通信する可能性を考えて、念のために、枕元の腕時計を取って素早く左手首に装着し、部屋の戸を開ける。
〝五感〟の〝限界〟を脱がしているため、暗闇の中でも、まるで昼間のように視界が良好な中、直ぐ左に見える階段の手前で、〝自分に掛かっている重力〟を脱がすと同時に、自分の〝脚力〟の〝限界〟を脱がし、床を蹴り、一気に二階へと跳ぶ。
唯一明かりが点いている中央の部屋――紗優の部屋に辿り着くと、既にリンジーは中に入っていた。
不安そうな表情を浮かべる紗優の前で、ライは、リンジーに声を掛ける。
「リンジー!」
すると、リンジーは、
「分かっている!」
と答え、紗優から借りた黄色い寝間着から、炎の鎧へと、姿を変えた。
ライは、リンジーと共に、上に向かって手を翳しながら、一瞬、紗優の部屋と家の屋根の事を考えて、
(一旦、外に出てから、やれば……)
と思った。
――が、
(それで間に合わなくなったら、どうするんだ!?)
と、考え直した。
そして、
(くそ! 俺の家が! 母さんの家が……!)
と、歯噛みしながら、叫んだ。
「『脱がし魔法』!」
――そこに、リンジーの声が重なる。
「『炎』!」
家の上空――遥か上から猛スピードで落下して来るソレに対して、ライは、脱がし魔法で、〝魔力〟を脱がすことで消滅させようとし、リンジーは、炎魔法で迎撃しようとした。
リンジーの両手から巨大な炎が出現し、勢い良く真上に飛ぶと、部屋の天井と家の屋根を一瞬で灰にして吹き飛ばし、ソレに向かって飛んで行く。
脱がし魔法と巨大な炎魔法が、ソレに当たった。
その結果、ソレは――
「なっ!?」
「何だと!?」
――多少小さくなったものの、スピードが落ちることもなく、迫って来る。
ライは、
(ヤバい!)
と、紗優をお姫様抱っこすると――
「きゃっ!」
――リンジーが炎魔法で窓を焼き切った直後に、外へと跳躍した。
リンジーも、直ぐ様、その後を追う。
――その一瞬後――
「「「!」」」
――凄まじい轟音と共に、大地が揺れ、大気が震えた。
紗優を優しく地面に下ろしたライが、振り返ると――
「!?」
――家は、真上から貫かれて、破壊されていた。
「……マジかよ……」
――巨大な――余りにも巨大な、氷柱によって。
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