36人が本棚に入れています
本棚に追加
第二十五話「四天王 美少女宇宙人(2)」
ライたちが見上げると、氷柱で貫かれた家の遥か上――高空に――
「ケイシー様!」
声を上げるリンジーが見詰める先には、青髪のセミロングに丸くて大きな碧い瞳が印象的な、爆乳――純よりも更に大きい――を持つ、美少女宇宙人が静止していた。
「よくぞ、あの攻撃を避けたのだ。裏切り者と地球人の癖に。褒めてやるのだ」
そう言いながら見下すケイシーだが、その身に纏っているのは、胸部と股間をまるで下着のように覆っている刺刺とした氷と、同じく足首から下を覆う氷のみだ。
ライは、ケイシーを見た後、家に突き刺さっている巨大な氷柱を一瞥し、
(露出狂というか、痴女みたいな格好だが、流石、四天王最強……実力は、本物だ……!)
と、気を引き締めた。
その直後、特殊部隊の二人が、銃を構えた。
が、ライが、
「止めろ!」
と、制止した。
「どうせ効かない! 標的にされるだけだぞ!」
その言葉に、二人とも、一瞬躊躇したものの、銃を下げた。
ライは、近くで不安そうに立っている紗優に対して、
「紗優は、遠くへ逃げろ!」
と言った。
「……分かった!」
自分が足手纏いにしかならないと理解した紗優は、そう答えると、裸足のまま走り出した。
その後ろ姿に向かって、ライが、脱がし魔法を掛けて、紗優の肉体の〝防御力〟の〝限界〟を脱がす。
(万が一ケイシーの氷魔法を食らったら、焼け石に水だろうが、やらないよりかはマシだ)
ライが再び空を見上げると、リンジーは、飛行魔法でケイシーと同じ高さまで舞い上がっていた。
ライも、〝自分に掛かっている重力〟を脱がして跳躍すると、途中で、〝脱がした重力〟を部分的に解除し、重力の調整をして、リンジーの近くまで移動すると、静止した。
リンジーは、
「ケイシー様! 僕の話を聞いて下さい! 僕は、ケイシー様とは戦いたくありません!」
と、必死に訴える。
だが、ケイシーは、冷めた目で、
「女王さまから命を貰った恩も忘れて、お前は、一族の面汚しなのだ。裏切り者の言葉など、ケイシーは聞く耳を持っていないのだ」
と言った。
尚もリンジーは、説得しようとする。
「ケイシー様! お願いです! 僕の話を聞いて下さい!」
――が。
「うるさいのだ! お前は、そこの地球人諸共、殺してやるのだ! そして、その後、しくじったお前の代わりに、ケイシーが自爆して、地球を破壊してやるのだ!」
そう言うと、ケイシーが殺意を放った。
反射的に、ライは身構えた。
――直後。
「お嬢さ~ん! 鎧を脱いで~!」
――どこかで聞いたような、場違いな叫び声が、下から聞こえた。
(まさか……)
ライが下に目を向けると、逆立った茶髪・十字架のネックレスの若い男がいた。
(また来たのか……豆男……)
それは、ライがリンジーと戦った際にいた、豆男だった。
「な、何なのだ、あの地球人の男は……!?」
ケイシーが、戸惑った声を上げる。
豆男は、前回同様、地球を襲いに来た美少女宇宙人――ケイシーに向かって、豆を何度も投げる。
しかし、届かない。
ただ、今回の豆男は、前回の反省を活かしたらしく、予め大量の豆をセロハンテープでくっつけてグルグル巻きにした、豆ボールを懐から取り出すと、振り被って、全力で投げた。
豆ボールは勢いよく飛んで行き、前回のリンジーの時よりも高い位置に浮かんでいるケイシーとの距離を詰めて行く。
だが、ケイシーの左脚にぶつかる直前――
――豆ボールは、一瞬で凍って、砕け散った。
それは、ケイシーの氷の鎧による自動防御(オートプロテクション)だった。
豆男を見下ろしながら、ケイシーは、
「よく分からないけど、ケイシーの邪魔をするなら、あの男も――」
と言った後、豆男の投げた豆に鼻腔を刺激する何かが付着でもしていたのか、
「! は……は……は……はっくしょん!」
と、くしゃみをした。
――その直後。
「「!」」
ケイシーから噴出した氷魔法による冷気が猛スピードで襲い掛かり、ライは、
「『脱がし魔法』!」
と、脱がし魔法で防ぎ、リンジーは、炎の鎧による自動防御で防いだ。
(危なかった……)
ふぅ、と息を吐くライだったが、ケイシーが、
「はひゃっ!? うっかり魔力が漏れて、凍らせちゃったのだ」
と言ったので、
(うっかり……? 凍らせた……?)
と、訝し気に思いつつ、眼下を見下ろすと――
「なっ!?」
――街が、凍り付いていた。
ケイシーを基点に、街が、半径五百メートル程、氷で覆われている。
豆男と、特殊部隊の二人も、氷の彫像になっていた。
(紗優!)
直ぐにライは、〝五感〟の〝限界〟を脱がして、周辺を探る。
すると、どうやら、紗優は既に、今の攻撃の範囲外まで逃げていたようだった。
(良かった……)
安堵したライは、
「『脱がし魔法』!」
と、特殊部隊の二人と、ついでに豆男も、脱がし魔法で氷を脱がした。
――だが。
(……あ)
勢い余って、豆男の服まで脱がして、消してしまった。
「ぶはぁっ!」
と、氷から解放されて息を吸い込んだ豆男は、服の中にしまっておいた大量の豆が、服と共に消えてしまった事に気付き、
「そんなあああああ! せっかく用意した豆が、全部消えたあああああ! うわあああああん!」
と、全裸で泣きながら走り去って行った。ちなみに、特殊部隊の二人も、ここに留まるのは危険と判断したのか、凍り付いた車での移動は断念して、ケイシーの動きを警戒しつつ、徒歩で退避して行った。
「「………………」」
「………………」
無言のライとリンジー、そしてケイシー。
ライが咳払いをすると、三人の間に、再び緊迫した空気が流れた。
ケイシーは、
「裏切り者と、地球人! お前たちを串刺しにしてやるのだ!」
と言うと、手を上に掲げた。
すると、人間大の氷柱が二本、ケイシーの頭上に出現した。
張り詰めた空気の中、しかし、ライは、先程のくしゃみを思い出してしまった。
そして――
(痴女みたいな見た目なだけじゃなくて、何か……コイツは……そこはかとなく……)
「ケイシー。ポンコツだな……お前……」
と、呟いてしまった。
想定外の言葉だったのか、ケイシーは、
「はひゃっ!? ポ、ポンコツ……!?」
と、狼狽えて、氷柱が消える。
が、
「ケイシーは、ポンコツじゃないのだ!」
と、立ち直ると、再び氷柱が現れた。
そして、ケイシーは、ライに向かって叫んだ。
「裏切り者にも腹が立つが、ケイシーが一番ムカついているのは、お前なのだ! 地球人!」
「俺?」
「そうだ! お前は、地球を襲った敵を殺さないどころか、助けて、剰え、共に暮らして、ヘラヘラ笑っているのだ! 〝自分は良い事をした〟と、悦に入っている、そんなお前は、偽善者なのだ! ケイシーは、偽善者が大嫌いなのだ!」
その言葉に、ライは、
「俺は別に――」
と、反論しようとするが、ケイシーの叫び声が、それを遮った。
「うるさいのだ! 裏切り者と、偽善者! 二人纏めて、死ぬのだ!」
と、ケイシーは、氷柱を二人に一本ずつ飛ばした。
ライとリンジーは、それぞれ、脱がし魔法と炎魔法で迎撃しようとする。
「『脱がし魔法』!」
「『炎』!」
――しかし。
「なっ!?」
ライが、魔力を脱がすことで消そうとして発動した脱がし魔法を食らった氷柱は、消えずにそのまま勢いよく飛んで来る。
「くっ! 『脱がし魔法』!」
慌ててもう一度脱がし魔法を放って、漸く氷柱が消滅した時には、氷柱はライに触れる寸前だった。
(見た目はそんなに大きくないのに、込められている魔力の量と、威力が半端じゃない!)
リンジーも同様に、一度の炎魔法では相殺出来ず、
「『炎』!」
と、もう一度唱えて、辛うじて氷柱を溶かし切る事が出来た。
二人に対して、ケイシーは、
「もう一度食らうのだ」
と、再び二本の氷柱を生み出し、放つ。
それを再度迎撃するライとリンジー。
その後も、ケイシーは同様の攻撃を続けた。
ライは、迎撃しながら、先程家を貫いた巨大な氷柱を思い出した。
(本当は、もっと大きな氷柱や、多くの氷柱を生み出せるはずなのに、遊んでいるんだ! 俺たちを舐めやがって!)
だが、そのお陰で、ライたちは、今の所は何とか対処出来ていた。
リンジーは、氷柱を炎魔法で相殺しながら、ケイシーに対して、尚も、
「ケイシー様! 止めて下さい! 僕の話を聞いて下さい!」
と、訴え掛ける。
が、ケイシーは、
「黙るのだ! この裏切り者!」
と、取り付く島もない。
しかし、それでもリンジーは、叫び続けた。
「ケイシー様! 僕は、この星で、トモダチが出来たんです! あの子を、死なせたくないんです!」
そんなリンジーを、ケイシーは、
「そんなの、お前の勝手な都合――」
と、突き放そうとするが、その言葉は、リンジーの叫び声で遮られた。
「僕は、ケイシー様も死なせたくありません!」
「!」
リンジーの、想いが籠もった言葉に、ケイシーは目を見開く。
リンジーは、立て続けに叫んだ。
「ケイシー様は、僕に魔法を教えてくれました!」
「ケイシー様は、僕に戦闘訓練をしてくれました!」
「ケイシー様は、僕に優しい言葉を掛けてくれました!」
「ケイシー様は、僕の頭を撫でてくれました!」
「ケイシー様は、僕を、本当の妹のように、可愛がってくれました!」
そして、ありったけの想いを込めて、喉が嗄れる程に叫んだ。
「そんなケイシー様を、僕も、姉のように慕っていました! いえ、今でも慕っています!」
その言葉に、ケイシーは俯いた。
と同時に、ケイシーの頭上の氷柱が消える。
「本当……なのだ?」
顔を上げたケイシーは、囁くように、そう聞いた。
リンジーは、
「本当です!」
と、即答する。
ケイシーは、続けて質問した。
「お前は……ケイシーの事を、姉のように慕っているのだ……?」
「そうです!」
再度即答するリンジーに対して、一瞬、表情を和らげ掛けたケイシーだったが、
「だけど」
と言うと、
「お前は、ケイシーたちを裏切ったのだ……だから、信用出来ないのだ……」
と、悲しげな表情を浮かべた。
リンジーは、
「では、どうすれば信じて貰えるのですか?」
と問う。
ケイシーは、
「そんなの、ケイシーも分からないのだ! だって、お前の心は、ケイシーには見えないから……分からないのだ……」
と、呟いた。
その言葉に、リンジーは、
どうすれば、信じて貰えるのだろう?
と、必死に考える。
そして、
そうだ!
と思い付いたリンジーは、徐に、
「では、これで、どうですか?」
と言った。
ケイシーがリンジーを見ると――
「!」
――リンジーは、戦闘服――炎の鎧を解いて、寝間着姿になっていた。
ケイシーは、
「鎧を解くなんて……そこまでして……!?」
と、驚愕に目を見開いた。
そして、
「そこまでして貰ったら、ケイシーも、お前の事を……リンジーの事を、もしかしたら、信じても良いかもしれないのだ……。いや、良いかも、じゃなくて、リンジーの事を信じるのだ!」
と続けて言うと、ケイシーは、穏やかな笑みを浮かべた。
そんなケイシーを見て、
「ケイシー様!」
と、リンジーも顔を綻ばせる。
二人のやり取りを見ていたライも、
(戦闘を回避出来るなら、それに越したことは無い。良かったな、リンジー)
と、頬が緩んだ。
――が、次の瞬間――
「がはっ!?」
――リンジーは、後ろから、氷柱で胴体を突き刺されていた。
「リンジー!」
悲痛な叫び声を上げるライ。
死角に氷柱を出現させ、背後からリンジーを襲ったケイシーは――
「お前の事を妹だと思ったことなど、一度もないのだ」
と、邪悪な笑みを浮かべた。
最初のコメントを投稿しよう!