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プロローグ(後)
暫くすると、やっと落ち着いたらしく、ライは神の方を向いた。
「で、転生し直す件だが」
「そうでしたわね。では、今度こそ――」
「その前に」
「またですの?」
再度止められた神が、げんなりとした表情で、ライを見下ろす。
「当たり前だ。今度こそ、まともな転生をさせて貰わないとな」
「まとも、とは?」
「さっき俺が言った事を考えれば分かるだろうが。まず、年齢を十代にしてくれ。それと、ルックスはイケメンじゃなくても良いから、せめて普通にしてくれ。あと、最後に、今みたいに魔法を使えるままにしてくれ」
「これは、最低限の条件だ」と、ライは続けた。
本来、転生者が神に対してどんな要望を伝えようが、神にはそれに応じる義務など無い。
だが、目の前の人間は、戦友たちに自分の死を揶揄されたのだ。
神は、出来るだけライの要望に応えようとした。
「最初の二つに関しては、問題ないでしょう」
「良し!」
拳を握り締め、小さくガッツポーズを取るライに対して、神は、「ただ」と、付け加えた。
「最後の一つは話が別ですわ。現代日本に於いて、魔法が使えるというのは、銃火器を自由に使える以上に危険な事ですから」
それに対して、ライは、
「何言ってんだ?」
と言って、続けた。
「俺が使えるの、脱がし魔法だけだぞ? どこが銃よりも危険なんだよ!?」
その言葉に、
「まぁ……言われてみれば、確かにそうですわね……」
と、神は俯きつつ思考した後。
ライを見詰めて言った。
「分かりましたわ。では、三つ目の要望も許可しましょう」
「よっしゃ!」
ライは、大きなガッツポーズで喜びを爆発させた。
神は、
「では、今度こそ。三度目の正直ですわ。転生させますわよ?」
と言いながら、両手を掲げる。
「おう、やってくれ! 色々ありがとうな!」
つい先程まで不平不満をぶつけていたのが嘘のように、ライは顔を綻ばせた。
「では、行きますわ」
神が両手を翳した先に、長方形に輝く、巨大な光が現れた。
「その中に入りなさい。そうすれば、転生した状態で現代日本に空間転移出来ますわ」
「分かった!」
ライは、胸を高鳴らせつつ、光の方へ歩んで行く。
「貴方の新たなる人生に、幸多からんことを」
神が、またもや仰々しく両手を広げ、一度目の転生の時と同じ台詞を背後から掛ける。
少し前までのライであれば、
(顔が変わってもブサイクなままで、しかも元々おっさんなのに更に年食ったおっさんにされて、脱がし魔法しか使えない状態で魔王討伐に行かされて、何が〝幸多からんことを〟だ!)
と、突っ込んでいた所だろう。
だが、今のライは、これから自分が脱がし魔法を使って味わう快感を想像して、涎を垂らす程に興奮しており、餞の言葉の内容などどうでも良かった。
ライが空間転移魔法に足を踏み入れ、光に包まれた――
――直後、背後から、神が、
「ちなみに、家族に自分の正体を明かす事は禁止ですわ! 破ったら、死んで貰いますので!」
と声を掛けた。
高揚感に包まれている中、〝禁止〟や〝死〟という言葉に、ライは辛うじて反応して、聞き取る。一年だけとはいえ、異世界にて冒険者として命懸けの戦いをして来たのだ。その経験値故に、命に関わるような情報には、敏感に反応するようになっていた。
だが、ライは、
(別にそんなの、痛くも痒くもないし。そんな事よりも、めくるめく快楽人生のスタートだ! 俺が使える唯一の魔法が脱がし魔法で良かったと、初めて思ったぜ!)
と思いつつ、三度目の人生へと、踏み出した。
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