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第二十八話「四天王 美少女宇宙人(5)」
そして、現在。
ライは、何が起こったのか、詳細は全く分からなかった。
しかし――
(俺たちが苦戦しているこの状況で、紗優は、日本中に炎を出現させた)
それが意味することは、一つだった。
(これは全部、俺たちのためだ!)
ライは、リンジーに向かって、叫んだ。
「リンジー! この炎は、紗優からのプレゼントだ!」
その言葉に、リンジーは、瞬時に紗優の意図を汲んだ。
「了解した!」
そして、
「炎よ! 集え!」
と、リンジーは両手を真上に掲げた。
すると、その声に呼応して、日本中の炎が、猛スピードでリンジーの頭上――球状にリンジーたちを取り囲む氷柱の更に上に集まって行く。
――が。
「何をしようとしているのか知らないけど、待ってやる義理は無いのだ!」
と、ケイシーが、上に掲げていた手を振り下ろした。
その直後、全ての氷柱が、一斉にライとリンジーに襲い掛かる。
――だが。
「なっ!?」
――氷柱は全て、止められた。頭上に集まった炎の一部を一瞬で引き寄せたリンジーが作り出した、球状の炎の壁によって。
リンジーは、左手を上げたまま日本全体から炎を集めながら、
「ライ! 外へ!」
と叫ぶと、右手を下に向けて、集めた炎の一部を使って、巨大な炎を放った。
猛炎は、球状の氷柱群の下部に一直線に飛んで行くと、氷柱を溶かし、蒸発させ、球状の下部に大きな穴を開けた。
(下から出て、外へ逃げろって事だな!)
ライは、
「分かった!」
と叫ぶと、脱がし魔法で脱がしていた〝自分に掛かっている重力〟を元に戻して、穴に向かって落下して行った。
――しかし。
「逃がす訳ないのだ!」
と、ケイシーが手を翳すと、新たに氷柱が出現して行き、穴が少しずつ塞がって行く。
「くっ!」
更に、現れた氷柱の幾つかが、落下して来るライ目掛けて、飛んで来た。
「『脱がし魔法』! 『脱がし魔法』!」
ライは、致命傷になりそうな軌道で飛んで来る氷柱を脱がし魔法で迎撃しつつ、残りは、脱がし魔法で獲得した柔軟性を使い、躱そうとする。
――だが。
「ぐっ!」
躱し切れず、掠めて行く氷柱によって、四肢の肉が抉られるが、耐えて、穴へと向かう。
(あともう少しだ!)
ライがそう思った直後、穴が塞がるペースが上がり、瞬く間に、穴が小さくなって行く。
それを見たライは――
「『脱がし魔法』!」
穴の〝大きさ〟の〝限界〟を脱がし魔法で脱がし、無理矢理穴を抉じ開けて、大きくした。
その間に、ライは穴を通過して、脱出に成功する。
地面に着地する寸前に、ライは、自分の〝脚力〟の〝限界〟を脱がし、着地して地面を強く蹴ると同時に、〝自分に掛かっている重力〟を再び脱がして、斜めに跳躍し、途中で自身に掛かる重力を脱がし魔法で調整し、氷柱群から少し距離を取った上で、空中に静止した。
ケイシーは、そんなライを一瞥すると、
「チョロチョロと、すばしっこい奴なのだ。まぁ、良いのだ。お前は後回しなのだ」
と言った後、リンジーに目を向け、
「まずは先に、お前を始末してやるのだ! 裏切り者!」
と、叫び、手を翳した。
すると、ライが通った球状の下部にある氷柱が、一斉にリンジーに向かって飛ぶ。
「炎よ!」
――が、リンジーは、下に手を向けて、下部に対しても炎の壁を作り、止める。
それに対して、ケイシーは、
「甘いのだ!」
と、炎の壁の〝内側〟に、幾多の氷柱を生み出し、全てを同時に飛ばしてリンジーを攻撃する。
「リンジー!」
叫ぶライ。
勝利を確信するケイシー。
リンジーに、多数の氷柱が突き刺さる――
「なっ!?」
――寸前――
リンジーの身体が、巨大な炎で覆われた。
日本中の炎を集め、自身の周りに集束させたリンジーは、炎を膨張させて――
「!」
――一瞬で、全ての氷柱を燃やし尽くした。
しかも、集めた炎は、まだ残っており、リンジーの身体は、巨大な炎で覆われたままだ。
その光景を見たケイシーは――
「それで勝ったつもりなのだ!? 舐めるんじゃないのだ!」
と叫ぶと、リンジーに向かって、
「『大氷柱』!」
と、両手を翳した。
すると――
「「!」」
――ライの家を貫いた氷柱よりも、更に巨大な氷柱が空中に出現した。
ケイシーは、顔を歪めて、叫んだ。
「ただの兵士が、四天王最強のケイシーに勝てる訳が無いのだ! 死ねえええええ!」
その直後、余りにも巨大な氷柱が、その大きさとは裏腹に、猛スピードでリンジーに向かって飛んで行く。
それに対して、リンジーは、
「『究極炎』!」
と、集めた炎を全て使い、巨大な炎の竜巻を生み出して、迫り来る氷柱にぶつける。
――だが。
「くっ!」
氷柱の勢いは凄まじく、じりじりと押されて行く。
リンジーは、
「はああああああああああああ!」
と叫びつつ、炎に自分の魔力を上乗せした。炎が更に膨れ上がるが、既にかなり魔力を消耗しているリンジーは、無理が祟って、口許から血が伝う。
――しかし、それでも、氷柱の勢いを削ぐことが出来ない。
そんな中、ライは、
「『脱がし魔法』!」
と、脱がし魔法で、リンジーの炎魔法の〝攻撃力〟の〝限界〟を脱がそうとした。
ライは、立て続けに叫んだ。
「『脱がし魔法』! 『脱がし魔法』! 『脱がし魔法』! 『脱がし魔法』! 『脱がし魔法』! 『脱がし魔法』! 『脱がし魔法』! 『脱がし魔法』! 『脱がし魔法』!」
脱がし魔法の連続使用で、身体に負荷が掛かり過ぎ、ライの口許からも、血が流れる。
見ると、ライの脱がし魔法によって、リンジーの炎魔法は、更に膨張し――
「なっ!?」
――少しずつ、氷柱を押し戻して行く。予想外の事態に、目を見開くケイシー。
そして、リンジーは、再び炎に魔力を注ぎ込みつつ、咆哮した。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
炎の膨張は止まる所を知らず、一際大きく膨れ上がった瞬間、氷柱を完全に飲み込み、焼き尽くして――
「……そん……な……!? ……がぁッ!」
――驚愕の声を上げるケイシーをも、飲み込んだ。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
肩で息をするリンジー。
ライは、炎が消えて煙が漂っている、ケイシーがいた辺りを見ながら、
(これだけの攻撃を食らったんだ。アイツだって、ただで済むはずが無い)
と思った。
――が。
「!」
「なっ!?」
煙が晴れて、姿を現したケイシーは――無傷だった。
ケイシーは、
「今のはヒヤッとしたのだ。防御が間に合わなかったら、危なかったのだ」
と、平然と言ってのけた。
どうやら、炎が直撃する直前に、氷魔法で自身の身体全体を包み、防御したようだ。
そして、先程漂っていたのは、煙ではなく、水蒸気だったらしい。
「くっ!」
(どんだけ強いんだよコイツは!?)
と、ライが戦慄していると、ケイシーは、
「正直、ここまでやるとは思っていなかったのだ。褒めてやるのだ」
と、ライとリンジーに向かって言った。
そして、
「流石にさっきので、ケイシーもかなり魔力を消費してしまったのだ。もしかしたら、今ならお前たちでも、ケイシーを倒せるかもしれないのだ」
と言うと、ケイシーは、
「ここまでよく戦ったご褒美なのだ。良い事を教えてやるのだ」
と続けて、ライを見た。
訝し気にケイシーを見るライ。
そんなライに対して、ケイシーは、自分の胸に手を当てて言った。
「女王さまから貰った自爆魔法の術式は、この中――心臓全体に、物理的に組み込まれているのだ」
「「!」」
驚きの余り、ライとリンジーは目を見開く。
「それがどういう事か、分かるのだ?」
ライに向かって、挑発的に訊ねるケイシーの言葉に、ライは、
(……自爆を止めようと思ったら、コイツの心臓を……破壊するしかない……!)
と、唇を噛む。
ライの反応を見ると、ケイシーは楽しそうに、
「さぁ、どうするのだ? 偽善者?」
と、昏い笑みを浮かべた。
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