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第三十話「四天王 美少女宇宙人(7)」
ケイシーの魔力が膨張して行く中、ライは、ケイシーの胸に突き刺していた右腕を抜いた。
「がぁっ!」
吐血するケイシー。
だが、ケイシーは、それでも尚、笑った。
「あはははは! しぶとかったが、これで、お前たちも終わりなのだ!」
――が。
「! これは一体……!?」
――ケイシーは、異変に気付いた。
膨れ上がっていた魔力が、見る見る小さくなって行く。
更に――
「! 何故なのだ!?」
――ケイシーの胸の傷が、完全に回復していた。
豊かな乳房は、まるで、初めから傷など無かったかのように、綺麗だった。
ケイシーは、
「……お前の仕業なのだ!?」
と、ライを見る。
すると、ライは、
「そうだ」
「!」
と、事も無げに言った。
少し前。
ケイシーの自爆魔法術式が、心臓全体に物理的に組み込まれていると知ったライは、その直後から、何とかして自爆を止めて、しかしケイシーは殺さずに済む、という方法を必死に探していた。
(一体、どうすれば良い!?)
すると、ライは、家でリンジーが言っていた事を思い出した。
『君の魔法の方が、余程応用範囲が広くて凄いと思うぞ』
『無限の可能性を秘めていると言って良い』
そして、この戦いの中で、リンジーが回復魔法を使っていた事が、ライの脳裏を過ぎった。
その二つが、ライの頭の中で結び付き、
(脱がし魔法を使って、怪我を回復出来ないか?)
と、考えた。
だが、出来るかどうか分からないままケイシーに対して使えば、成功しなかった場合、取り返しがつかない事になる。
そのため、ライは、まずは、自分自身で試すことにした。
そして、わざと隙を作って、ケイシーに攻撃させて、それを受けたのだ。これには、ケイシーを油断させる効果もあり、一石二鳥だった。
四本の氷柱による攻撃を受けたライは、脱がし魔法で脱がしていた〝自身への重力〟を、一旦元に戻して、落下した。
ライは、落下している最中に、四本の氷柱の内、後ろの二本と前の一本は、脱がし魔法で消滅させて、脱がし魔法で自分の〝腕力〟の〝限界〟を脱がし、残り一本の氷柱を引き抜き、吐血しながら、脱がし魔法で〝身体のダメージ〟を脱がそうとした。
試みは成功し、氷柱による傷を完全に治癒する事に成功したライは、脱がし魔法で〝自分に掛かっている重力〟を再び脱がした上で、限界を脱がした腕力を使って、空中から下に向けて、氷柱を全力で投げた。
その反動で、ライは高速でケイシーに接近し、脱がし魔法でケイシーの〝身体〟の〝防御力〟を脱がしつつ、先程獲得した腕力を用い、勢いそのままに、右手の手刀でケイシーの胸を貫いたのだ。
そして、腕を引き抜くと同時に、ライは、脱がし魔法でケイシーの〝身体のダメージ〟を脱がし、ケイシーの傷を完全回復させた。
ちなみに、ライが脱がしたのは、あくまで、ケイシーの〝身体のダメージ〟であり、そこには、心臓全体に物理的に組み込まれていた自爆魔法術式は含まれていないため、結果的に、治癒されたのは肉体のみで、自爆魔法術式だけが破壊された。
尚、ケイシーの体内に組み込まれていた、もう一つの自爆魔法術式は、ケイシーの〝心臓の状態〟と連動しており、心臓が破壊されると、それを感知して術式が起動したが、損傷した心臓が完全に治癒されると、術式はそれを感知して、即座に停止した。
そして、現在に至る。
自分の傷が敵に治された事を知ったケイシーは、わなわなと震えて、
「敵を助けて、満足なのだ!? 『自分は良い事をした! 自分は素晴らしい人間だ!』と、悦に入っているのだ!? この偽善者!」
と、喚いた。
ライは、
「俺は、そんなつもりは少しも――」
と、再び反論しようとするが、ケイシーは、聞く耳を持たない。
「許さないのだ……! 絶対に、許さないのだ……!」
怒気を含んだ声で、そう言うと、ケイシーは、目を血走らせながら、叫んだ。
「四天王最強であるケイシーは、他の者と違い、女王さまから貰った自爆魔法術式が無くても、自力で自爆出来るのだ!」
「なっ!?」
「そんな!?」
驚愕の声を上げるライとリンジー。
「これで、最後なのだ! 今度こそ、お前たちは終わりなのだ! くたばるのだ!」
そう吼えると、再度氷の鎧を身に纏ったケイシーの全身を包み込むように、魔法陣が出現する。
そして、ケイシーの魔力が一気に膨れ上がると同時に、ケイシーの身体全体から、全方位に、無数の氷柱が生えて、それらが瞬く間に巨大化して行く。
「あはははは! あははははははははは! あははははははははははははははは!」
狂気の表情を浮かべ、笑うケイシー。
(くそ! まさか自爆する方法を三つも持っていたとは!)
ライは、
(どうにかして、あの魔力を抑え込めないか!?)
と、必死に考える。
すると、ライは、先程、ケイシーの身体を貫いた際に、リンジーを取り囲んでいた氷柱群が、消えた事を思い出した。
(あれなら……!)
しかし、ライは、直ぐにその考えを否定した。
(いや、駄目だ。あれは、ケイシーに致命傷を負わせたから、消えたんだ。この状況で、そんな事をする余裕はない)
尚も、ライが必死に頭を働かせると、ふと、もう一つ、ケイシーの氷柱が消えた場面を思い出した。
ライが、ケイシーの事をポンコツだと指摘した時の事だ。
あの時、ケイシーは狼狽して、氷柱が消えた。
(そうだ! 動揺させれば、きっと、魔力を抑え込める!)
――だが。
(具体的には、どうすれば良い!?)
と、必死に考えるも、思い浮かばなかった。
その間にも、ケイシーの身体から出現した氷柱群は、益々巨大化して行く。
焦りながら思考を続けるライは、気付くと、
「アイツを動揺させれば、きっと、魔力を抑え込めるのに! どうすれば良いんだ!?」
と、口に出していた。
すると、いつの間にか飛行魔法で近くまで飛んで来ていたリンジーが、それを耳にし、
「ケイシー様を動揺させる、か……」
と、俯いて数瞬考えた後、
「僕に考えがある」
と言った。
「本当か!?」
と、聞き返すライ。
それに対して、リンジーは、
「ああ。上手く行くかは分からないが、やってみる価値はあると思う」
と頷いた後、
「そのためには、その……君に、かなり負担が掛かる事を頼まなければならない……」
と、申し訳なさそうに言って、俯いた。
が、ライは、
「任せろ! 何でも言ってくれ!」
と、口角を上げた。
ライは、リンジーから頼まれた事を実行する為に、脱がし魔法を連続で放った。
「『脱がし魔法』! 『脱がし魔法』! 『脱がし魔法』! 『脱がし魔法』! 『脱がし魔法』! 『脱がし魔法』! 『脱がし魔法』! 『脱がし魔法』! 『脱がし魔法』!」
既に身体は限界を迎えており――
「がはっ!」
ライは、大量に吐血する。
――しかし。
「まだだあああああああああああああ!」
構わずに、ライは、魔法を発動し続ける。
「『脱がし魔法』! 『脱がし魔法』! 『脱がし魔法』! 『脱がし魔法』! 『脱がし魔法』! 『脱がし魔法』! 『脱がし魔法』! 『脱がし魔法』! 『脱がし魔法』!」
すると、ケイシーの身体から放射状に生えて巨大化して行く氷柱群の内、ケイシーの前面のものだけが、脱がし魔法で消滅した。
それを見たケイシーは、鼻で笑い、
「馬鹿め! 一部だけ消したところで、自爆魔法は止められないのだ!」
と、嘲る。
――その直後。
「!」
ケイシーは、ライを見た。
――否、無視出来ないライの動きに、強引に目を向けさせられた。
離れた位置にいるライは、満身創痍の身体を無理矢理動かして、
「うおおおおおおおおおおおおおおお!」
と、ケイシーに向かって、右手の手刀を、全力で、鋭く突き刺す動きをした。
そんな距離から、手刀が届くはずがない。
――だが、先程、ライの手刀で胸を貫かれたケイシーは、反射的に、胸を手で押さえて、防御しようとしてしまった。
――その、一瞬後。
「! しまっ――」
――至近距離に、リンジーが接近していた。
いくらケイシーでも、直接身体に触れられながらリンジーの炎魔法を食らえば、無傷では済まない。
やられる!
と、ケイシーは、覚悟した。
――が、次の瞬間――
「んっ!?」
――ケイシーの唇は、リンジーの唇によって塞がれていた。
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