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第六話「飛び降り少女(4)」
ライの事を特別視し始めていた紗優は、
さっき、目の前で飛び降りたのに……。やっぱり、この人は、私が死のうが、どうなろうが、そんな事どうでも良いんだ……
と、まるで裏切られたかのように感じて、ショックを受けた。
――が、そんな彼女に対して、ライは続けて言った。
「ただし、どれだけお前が飛び降りようが、俺が絶対にお前を死なせない! また助けてみせる!! 何度でも!!!」
「!」
強い意志を感じさせる言葉に、紗優の頬が朱に染まる。
先程、ビルの屋上からライがゆっくりと舞い降りて来た時に、紗優は、ライが何か手品でも使っているのかと思った。
そして、地面を柔らかくして紗優を救ったのも、不思議な力を持ったライなのではないかと。
その予想が、今のライの台詞によって、当たっていたことが分かった。
私の命を、助けてくれた……。これからも、助けると言ってくれた……
そして、私の事を、特別扱いしない人……
心の中から、今まで感じた事もないような、甘酸っぱい感情が溢れて来る。
気付くと、紗優は、ライに声を掛けていた。
「あ、あの……」
「ん? 何だ?」
「えっと……私は、西枇杷島紗優。あなたの名前を教え――」
――が。
「見付けた!」
――その会話は、突如ライの背後から掛けられた、違う少女の声によって、遮られた。
(あれ? この子は……)
ライが振り向くと、そこには、金髪碧眼で、長袖長ズボン姿の、ポニーテールの美少女がいた。
(そうだ! 一番最初、一人目に脱がした子だ!)
ライが思い出すのと、金髪ポニーテール美少女がライの腕を掴むのは同時だった。
「この人です! 私の服を脱がしたのは!」
「!」
そう叫ぶ金髪ポニーテール美少女の頬を涙が伝う。また不思議な力で服を脱がされるかもしれない、それどころか、今度はもっと酷いことをされるかもしれない、という恐怖からか、身体が震えている。が、その感情を必死に押し殺し、自身が以前受けた辱めを思い出して悔しさと羞恥を顔に浮かべつつも、ライを強く睨み付ける。
彼女の涙を見た時に、初めてライは気付いた。
(俺は、脱がしはしても、決して女性を傷付けない、という事を自分に課して来た)
(だけど……)
見ると、金髪ポニーテール美少女の後ろには、警官が数名待機していた。
(この子は、心が傷付いていたんだ。裸にされて。裸を見られて)
(いや、この子だけじゃない。俺が今まで裸にして来た女性たち全員、心が傷付いていたんだ)
警官たちが、緊張しながら慎重にライに近付いて行く。
目の前の、ごく普通に見える少年は、どういうカラクリかは分からないが、目撃者情報や監視カメラで確認すると、武器や道具を一切使わず、更に、手で触れる事すらせずに大勢の女性たちの服を一斉に脱がすという、人智を越えた力を持っているのだ。それ故、激しい抵抗が予想された。
が、ライは全く抵抗しなかった。
警官に手錠を掛けられて、パトカーに乗せられて連行された後も、ライは、金髪ポニーテール美少女の涙と、腕を掴んでいた彼女の手が小刻みに震えていたことを、何度も思い出していた。
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