わたしが持っているものはたったひとつだというのに。どうして贅沢だと一掃されてしまうのか。

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ゆうつだなぁとため息ついてばかりの春休みだった。 やっと中学で趣味の合う友人達を見つけて。 学校行きたくなくて、腹痛起こすこともなくなったのに。 同じ高校に進んだ友人は、ひとりだけだった。 ・・・またいちから、居場所づくりが始まる。 外見なんかにこだわらず友達になってくれる人を見つけたくて。 地味なメガネを選んだのに・・・。 高校では目立たず生きてくと誓ったのに。 奴らから離れて。 見物人がいなくなったとたん。 兄さんさっさとわたしをおろす。 背が高くて。筋肉質なこの人には、ちびなわたしを抱えるくらい簡単だ。 今のところ合気道だけ通ってる兄さんは。高校の部活はテニス部に入部した。この学校はテニスが強いのだ。 なんでテニス部か?その理由は姫抱っこの行動と同じ原因で。 「流石です、兄さん。 ふたりして水浸しでも女の子に媚びるのはやめないんですね」 ・・・さっきのやり取りには結構見物人もいて。 わたしの姫抱っこには。「きゃあ」と歓声があがったのだ。 モテるためになら何でもする兄さんは、ニヤリと笑うと。 「俺の株があがるのは嬉しいが。 ・・・お前。一週間もたねぇでやんの」そう冷たく言う。 だ。だって。 「高校では絶対目立たねぇ!と宣言したのは数日前だぞ。 一週間も経ってない」って鼻で笑われて。 メガネかけて見上げると。顔が歪んでた。悪い顔するよなぁこの人。 でもさぁ。 「売られたケンカは買うでしょ?」って言うと。 一回わたしをまじまじと見おろして。はぁぁぁぁってため息。 また顔を歪めて。 「お前は性格は母さんに似たよなぁ」って心底、呆れられてしまった・・・。 ほらってタオル。渡してくれる。 おぉ、これ吸水力いいね。 こんなタオル持ってたんだ。すぅっと水を吸い取るみたい。 スカートからぽたぽたと垂れていた水はほとんどなくなった。 楽しくなってあちこち拭いてると。 「まぁ、俺は助かるけどなぁ」 毎回わたしをダシにする兄さんは。自分も違うタオル使いながら、そう笑う。 春休み中かかって、やっと説得して。 高校では兄妹とはわからないように生活してください、と頼んだ。 はぁぁ。自分のせいとはいえ。その希望も消えてなくなった。 今更ちっとだけ後悔。 ・・・しかし、顔以外なにひとつ取り柄のないわたしが。 あの場で他にどう仕返せばよかったんだ? 「まず、仕返さないという選択肢がないのか、お前には」 呆れた兄さんは、さらに呆れて。自分のタオルもわたしに放る。 いくら吸水力のあるタオルでも、完全に乾いたとはいいがたく。 「タクシーで帰ろうぜ」と言ってくれたのは助かった。
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