わたしが持っているものはたったひとつだというのに。どうして贅沢だと一掃されてしまうのか。

3/16
前へ
/46ページ
次へ
少し考えたかと思うと。兄さん。 「ちょっとここで待ってろ」 と。直ぐにわたしの荷物をまとめてきてくれる。 もう教室の方向には戻りたくなかったから嬉しい。 裏門から学校を出ると、大きい道路は目の前で。 観光地でもあるこの町は、田舎だけど割とタクシーは通るのだ。 とはいえ。 兄さんは。 やってきた1台目のタクシーを無視。手を上げようとした私を止める。 へ? 「あれはだめだ」 個人タクシーのあんどん。見送って考える。なんで? ???って思ってると。 次にやってきたタクシーを兄さんは停めた。 「にっこり笑えよ」って小さな声で言う。 2台目のタクシーも個人タクシーで。 さっきのと、どう違うんだろうと首をかしげる。 運転手さんは濡れてるわたし見て。引きつってたけど。 にっこり笑うと乗せてくれた。 ありがとうございます。 なるべく動かないでおかねば。布張りのシートじゃなくて良かったわ。 合成皮革の防水加工。 それでも一応。完璧吸収のタオルをお尻の下に敷く。 「こんな状況だったんで助かりました」と。 にこやかに運転手さんにお礼言う兄さんの横顔、ちらっと見る。 わたしと兄さんは全く似ていない。 目は細いし、釣り目だし。整ってないとは言わないけど。冷たい感じ。 意地悪そうな、悪い顔は基本的に無表情で。黙っていればいるだけ怖い。 しかし、この人はモテるのだ。 ある条件下で。 中1の時に家族からをのぞくと0個だったバレンタインは。 中2・中3ともう少しで3桁になる数に膨れ上がった。 ・・・そして。高1のバレンタインも確か数個だったはずだ。 「今年度はまた。甘いものがたくさんで困るかもなぁ」と。 にやりとこちらを向く兄さん。 わたしが何考えてるか、すぐにバレる。 毎度ながらそんなにわかりやすいのかなぁ、わたし。 そう、なんとなくお分かりかと思うけど。 『お前にかまってるだけで。俺はかなり点数が上がるのだ』 『知らない子からお兄様と呼ばれたり』嬉しそうににやけた兄さんが。ふと私見て。『お前も呼ぶか?』って言ったこと思い出してゾッとする。 やめてくれ。 まっぴらだ。 ・・・なんだか文句が言いたくなったけど。 タクシーの中だ。余計なことは言えない、せめて降りるまでは。 このタクシー代は兄さんの財布から出るはずだから。ふっふっふ。それくらいの計算はわたしにだって出来るのだ。 「そいえば。なんで兄さんあすこに居たの?」 あんまりにもタイミングよく現れすぎでは? ちらっとわたし見て。兄さんは。 「そろそろ、なんかやらかすだろうと思って」とにやりとする。 ・・・くそう。悔しい。そろそろってなんだよぉ!
/46ページ

最初のコメントを投稿しよう!

26人が本棚に入れています
本棚に追加