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「 Honor student 」
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「ははは!おら!飯だぞ、食えよ!木下!」
――昼休み。
教師の監視も、勉強という時間にも縛られないこの時間にそれは平然とやってくる。
明らかに地毛ではないその金色の髪の毛と、チャラチャラと耳につけたピアスの数、男にしてはだらしない長髪気味の髪の毛にだらだらと着崩した服装をした同級生でクラスメートの男子が、弁当の残り物を一人の女子生徒の頭の上から被せている。
"イジメ"
最近増えたそれは、テレビで話題になるずっと前からうちのクラスでは起っていたことで。
でも、そんなの私には関係ない。
有名な私立高校の入学試験に滑って、変に三流のこの学校へ入学してしまった私は何としても良い大学に進むほか道はない。
だって、私に期待されてるのはそれだけだから。
中学の頃は割と頭の良かった私を仕事で忙しい母は初めて褒めてくれた。良くできたねって笑顔で。
父親が家を出て女手一つで私を育ててくれた母は、家計を支えるためか滅多に家には帰ってこず、久々に顔を合わせたと思えば言う言葉はいつもこうだった。
"「潤、勉強は大丈夫なの?貴女は期待されてるのよ、だから絶対に良い大学へ入学しなさい」"
榎木潤、それが私の名前。
一見男に聞こえるその名前は少し最初は嫌いだったけれど、母が一分悩んで決めたと聞いた時途端に誇らしく思った。
あの母さんが一分も悩んでくれたって。
小さい頃から勉強面だけ期待されてきた私は今までそれに応えるように生きてきた。小学生も中学生の頃もずっと学校では席次トップで。
高校もあの有名私立に行こうとしていたのに、最初の絶望はあの時。
全国中高生対象の一貫模試で一位は愚か、30位以内にも入れなかった。
周りの皆も、先生も中学生と高校生が受ける模試で"49位"になれたなんてすごいってこぞって褒めたたえたけれど、私にはそんなの無意味だ。
一位じゃなけりゃ、何位でも意味がない。
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