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中はとても薄暗くて、言ってしまえば外観に見合ったものだった。薄暗くて倉庫である前に、窓があるであろう窓ガラスはすべて粉々に壊れていて、雰囲気はやはり良いものとは言えない。
ほこり臭いものと、どんよりと澱んだような空気の漂う中を二人で歩き続けている。
「・・・何もないじゃない。」
懐中電灯で足元を照らしながら、隣で怯えたようにビクビクとしながら周りをキョロキョロと眺めている木下夕貴に私は呆れた声でそう告げた。
確かにうす気味悪くてあまり長居したいと思う場所ではないけれど、ただ気味が悪いという点を除いては未だ何一つ怪奇な現象は起きてない。
もちろん、あの"キリュウ"だって姿すら見てない。
「だと良いんですが・・・」
「怯えすぎよ、見ててイライラするわ。」
と言った後にハッとした。
今こんなにキツイ一言を言ってしまったら木下夕貴が泣いてしまうかもしれない。泣かれたらこれほど面倒なことはないだろう。
恐る恐る隣に視線を寄越してみれば、木下夕貴は真っ直ぐ前を向いたまま眉を八の字に曲げている。
「あの・・・すいません、私の所為で」
「・・・は?」
「だって榎木さん、私が虐められてるところ見たからあんなこと言ったんですよね。それで榎木さんまで怒り買っちゃって」
「・・・・」
「それでも、・・・不謹慎ですけど。私嬉しかったんです、榎木さんがそう言ってくれて私もスカッとしたって言うか、何だか良かったって思って」
――死ななくて良かった。
隣で小さな声でそう告げる彼女は、私の着ている洋服の裾をぎゅっと握って若干に震えている声で確かにそう言った。
死ななくて良かったって、もしかして死のうとしてたの?なんて馬鹿みたいなこと聞けるわけがない。
それでも隣を見てみれば木下夕貴は泣きそうな顔で口元を小さく上げて笑ってる。
良かった良かったってその感情が不思議と耳に聞こえてくるようで、少し気持ちが悪かった。
私は正直、彼女のためにあんなことを言ったんじゃない。自分の名前を馬鹿にされたことに対して苛立ったからそう言っただけだ。
結果的にどうであろうと、私は私自身にしか優しくなれない。
「誤解よ。」
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