2人が本棚に入れています
本棚に追加
「へ?」
「そんなの誤解よ。私は貴女を助けたつもりも、その為に発言したつもりもないわ。」
「・・・そうなんですか」
「だから、アニメも私は嫌いだし。貴女も少し苦手。」
静かな倉庫の中で、私と木下夕貴だけの会話が響いてる。
一方的にも思えるその言葉に木下夕貴は黙ったままそれでもちゃんと耳を傾けていて、私の言葉一つ一つに表情を変えた。
アニメは好きじゃない、全然知らないって。そんな事で感謝する貴女の事も分からないし、私はそんな貴女は苦手だって正直に伝えても木下夕貴は怒りも泣きもしなかった。
ただ、私の洋服の裾をそっと離して寂しげに笑うだけ。
「それに、幻滅したでしょう?カンニングなんて、小さな出来心とはいえ最低だもの。・・・私もクズ人間に過ぎないから」
母親に褒めてほしかった、もう一度。
貴女の娘はもう大丈夫って大学も受かって高校の席次でも上位を取れて、もう心配しなくても良いよって。
また笑顔が見たかった、だなんて。
きっと女子高校生が思うことじゃない。
「そんな・・・榎木さんはクズ人間なんかじゃありません!私なんて昔から自分の意見一つも言えなくて・・・」
「・・・・」
「だから!クズ人間だなんて言わないでください、榎木さんは本当にいい人です。助けられた私が言うのもなんですけど、榎木さんはヒーローみたいです!」
頭がおかしいんじゃないかって本気で思った。
一生懸命に頷きながらそう豪語する木下夕貴の表情はとても力強い。自分の意見が言えないだなんて、言えてるのに。
木下夕貴は一つにまとめた髪の毛の束を揺らしながら、頷いた。
ヒーローだなんて生まれて初めて言われた。助けられた、良い人だなんて初めて言われた。
良い子だ、頭が良いこ、行儀が良い子。そんな他人礼儀は沢山言われてきたけれど、同級生の女の子に言われたのは初めてだ。
だからか、少し身構えてしまう。
「私はやっぱり、自分が嫌いです。」
やっぱり、身構えてしまう。
最初のコメントを投稿しよう!