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「・・・私はもう、逃げたくない!」
竦む足を一生懸命動かして、少し距離が出来た彼女との距離を縮めるように走りだす。
怖いわよ、そりゃ怖いわ。
本当は逃げたくて仕方ない。柄にもなく泣きそうになって、うっすら涙まで浮かべてそれに近づくんだから。
それでももう、私は逃げたくないから。
定期テストでカンニングもしない、母親にも良い顔して良い子供を演じない、優等生ぶらない、遅刻だってして居眠りだってする。食事は野菜ばかりじゃなくってお菓子だって食べたい、ベットの上で食べてやろう。
テレビも、漫画もドラマも・・・アニメだって。
見てやる。もう逃げたくない、これ以上私は私に幻滅したくない。
―――だから!
「キリュウ!!どこにいるのか知らないけど、この私から魂を食べられると思わないことね!いいえ、隣で気絶してるビビリの女からも、食べられるなんて調子に乗らないでちょうだい!出てきなさいよ!隠れてないで、出てきなさい!アンタなんか怖くないんだから!」
傍からみれば、馬鹿な女かもしれない。
頭の狂った可笑しいな女なのかもしれない、キリュウなんて噂上の架空の人物に声を上げて喧嘩を売るだなんて。
でも、もし。今起こってることが全て現実なら、私は帰りたい、隣の彼女と一緒に帰りたいから。
荒い息を肩でしていれば、いきなり木下夕貴が引っ張られ始めた。
どうやらキリュウが動いたらしい。
勢いよくズルズルと引きずられ始めた彼女に驚いて、体につかみかかる。絶対に離さないと決めて。
もしかすれば、キリュウは何か法則があるのかもしれない。たとえば姿を消してるのではなく、特定の人間にしか見えない・・・とか?
なら、木下夕貴がもし仮に見えてるとしてどうすれば見えるのか考えれば良いはず。
・・・何か、何か。
"「自分が嫌いです。」"
記憶の中でつい先ほど苦しそうに彼女が呟いた一言を思い出してハッとする。
もし、そんな自虐的な言葉が合図になってるんだとすれば私が見えないのも納得がいく。
自分が嫌いだなんて発言はしてないから。
すうっと勢いよく息を吸いこんで私は大きく声を上げた。
「私は、私が嫌いだ!!!!」
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