-01 赤い海

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――最初は、飼っていたペットの犬がいなくなった時。 長年一緒にいたペットの犬がある日突然失踪した日、焦って探しに出かける父親や近所の年上達に交じって、何となく俺は探していた。 結局、その犬が見つかることはなくって。黙りこんで椅子に座っている俺を何を勘違いしたのか皆が励ました。「大丈夫、明日には見つかる。」「大丈夫、きっと生きてる」そんな風に頭を撫でて。 俺はただ疲れたなと思っただけだ。 次は、割と仲の良かったクラスメイトが転校する時。クラス中の皆が泣いて、そいつも泣いて教師まで鼻水たらしてお別れ会を開いて皆で歌って、元気でやれよって激励した。 最後に俺と握手をして涙でグシャグシャの顔を汚しながら教室を出てったそいつを眺めて見送る俺に教師は言った、「楠木は偉いな、親友を泣かずに見送って。」って、アイツもきっと喜んでるぞって。 その言葉を理解出来ずに、「何が?俺、泣きたくなるほど悲しくないから」って告げた俺をクラス中が奇妙そうな目で見たり。 次の日には不思議なあだ名までついた。"「冷酷な楠木には涙も血もない」"なんて噂までたったほど。 そして、最後は・・・両親が死んだとき。 最初から最後まで泣かなかった俺を、一人黙り込んでヘラリヘラリとふわふわした足がついてないような生き方をしてきた俺を、周りは皆気味悪がったけれど。 今なら理解出来る、俺は気味が悪い。 そっと伸ばした手の指の間から覗く星々の光を掴めないだろうか、なんてロマンチックに考えて少し腕を伸ばす。 何だか掴めそうだ。 目いっぱい伸ばした腕をピクリとさせて空目がけて伸びろ!なんて命令したって伸びるはずもない、当たり前だけれど。 そんな風に諦めてそれを下ろして、立ち上がったまま突っ立った俺は少し情けない。 と同時に何故か寒気を感じた時。 「平凡・・・じゃなくなったな、俺」 「――オマエ、平凡が嫌いじゃないのか。」 少し低いけれど、その特徴的な声が俺に話しかけるように聞こえたとき。少し痛んでいた鈍痛は小さく消えていなくなった。 アンタ、一体。 「――アンタ、誰?」
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