ちか★ちか(鬱注意)

2/6
前へ
/6ページ
次へ
 僕は警備船シーシャハイツ号に乗っていた。  2人乗りの船で外宇宙の植民惑星の警護を仕事としている。ところがある朝、唐突に船が故障した。選択の余地はなかった。あれから何度考えてもそれ以外の結論は浮かばなかった。  恐らく水を合成する機械が壊れたのだろう。配管や蛇口からはとめどなく水が溢れ出し、しかもそれらは艦内空気中に自由に散らばった。  艦内が水に浸される。急いで強制排水をオンにしたけれどもとてもまにあわない。僕の同僚はいつのまにか姿が見えず、僕は自ら逃れて配管のないほうないほうに逃げていく。それを水玉が追いかけてくる。  ここで溺れ死ぬにはどのくらいの時間がかかるのだろうか。  無重力状態の空気の中で小さな水玉はぶつかり弾け合う。小さな粒が大きくなり、また砕けて小さくなる。それがゆっくりと手すりを伝って逃げる僕を追ってくる。無重力では水は重力に押されて水同士と固まったりしない。だから水は粒のまま、空気の隙間にはまり込む。空気を吸い込めば息はでき、水を吸い込めば窒息する。そんなまだらな半死半生。それが宇宙水死。世界で最高に悲惨な死に方の2番目にランキングされている。  僕はどのくらい苦しんで、いったいいつ死ねるのだろう。  だから、逃げに逃げて無意識に廊下の先に飛び込んでもおかしくはない。そこがポッドだとは主体的には考えていなくて、でも頭の隙間にはあったかもしれないけどそんな余裕はちっともなくて。  けれども結局こんな二択。2番目に最悪の宇宙水死か1番目に最悪のポッド放流。  緊急脱出ポッドは人道的な見地から宇宙船には必ず備え付けなければならないと法律で義務付けられた設備だ。宇宙船に回復不能な異常があった場合、中に人が搭乗すれば自動的に射出される。つまり船の判断においても船に残れば僕は死ぬしかなかった。宇宙水死。それは確か。  それでポッドはどこかの船に救護されるまで、搭乗者の生命維持と食料供給が自動でなされる。けれどもポッドの射出方向によっては人がいる航路からどんどんと遠ざかり、未踏の外宇宙に向かってしまう。離れれば離れるほど通信速度も遅くなり、生還は絶望的。特にそもそも母船は外宇宙を巡っていた。ほとんど通る船がない区域。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加