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ポッドは搭乗者の自然死が認められるまでは生命維持が続けられる。僕は21歳。医療が発達した現代の平均寿命なんて考えたくもない。だから何があってもポッドには乗ってはいけなかったんだ。
そこからどのくらい時間がたったのか、もはやよくわからない。
僕の頭の中や精神に異常が認められないように様々な精神薬を投与されるけれども、僕の精神はすっかり不可逆不可避な絶望で塗りつぶされて器質的にも回復できない脳の深い所に損傷を引き起こした。医療技術にも限界はある。
意識は混濁し幻覚幻聴は増長し、自分がどこにいるのかすらもわからない状態で漂い続けた。
頭の奥がちかちかと瞬く。
さらりと風が吹いている。
海の少しの潮風が僕の肌を揺らす。目の前にはざざりざざりと打ち寄せる白波が深い紺色の海と薄く黄色みを帯びた小さな砂浜の間を行き来していた。更に耳を澄ますとどこかからにゃぁにゃぁと鳥の声が聞こえる。刺激の強いこの光景。
手元を見ると小さなプレートに冷たい金属の感覚。そしてそこに刻まれた僕の名前と46歳という数字。
そうだ、僕は3年前に奇跡的に救出された。
奇跡、そうそれはもはや奇跡と呼ぶにもおこがましいような、この砂浜で一粒の砂を見つけるような可能性の果てに僕は外宇宙を探査する探査船に救助された。射出されてから22年後、僕は射出される前の人生より長い間を狭いポッドの中で過ごし、手も足もやせ細った僕は会社から莫大な賠償金を受けてゆっくりとこの浜辺で暮らすようになった。
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