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救出から3年経ったけれど僕の手足は動く兆しを見せない。もうずっと動いていなかったのだから、僕の脳の動かそうとする器官が麻痺してしまったのだろうと医者は言った。
けれども僕は大分幸福だった。あのポッドの中の昼も夜も時間の感覚すらない闇の中に比べれば、この打ち寄せる波だって慌ただしすぎて僕の精神にとっては波乱万丈に思える。
けれども今でもあのポッドの中の僕の脳裏に刻みつけられた光景は僕の視界をジャックして、この空と海と砂の光景を宇宙の闇に塗り込めようとする。
ちか、ちか。
そう、気がつくと、はたと気がつくと僕はあのポッドの中にいる。何故だ、どうして、今までの歯夢だったのか、そんな。声にならない悲鳴を上げる。
ちか、ちか。
そしてまたはたと気がつくと砂浜で波の音に耳を傾けていることに気がついてホッと息をなでおろす。
その2つの世界がまるで明滅するように入れ替わり、僕はまるで夢遊病のようにその2つを行ったりしていた。あの恐ろしいポッドとこの世界。
もはや何が真実かわからなくなっていたけれど、ポッドの中での僕の感覚は全てが曖昧で茫洋としていて、砂浜での僕は耳や香りや目や触覚が僕をゆらすからきっと砂浜のことが真実なんだろう、と思い込もうとした。
ちか、ちか。
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